2025年10月20日月曜日

軽佻浮薄

自分は時代遅れであると卑下しておられるようでもあるし、自分は流行に左右されるような軽佻浮薄(けいちょうふはく)な人種ではないと主張しておられるようでもある。

小方厚『音律と音階の科学』

2025年9月26日金曜日

天の配剤

しかし天の配剤(てんのはいざい)は妙である。あるいは人の配剤もまた妙というべきか。

科学朝日『ノーベル賞の光と陰』

2025年9月20日土曜日

鳴かず飛ばず

鳴かず飛ばず(なかずとばず)の大学教授で終わるより、有名になった自分を想像したほうが楽しいに決まっている」と博士号取得後の若きワトソンは、構造のわかっていなかったDNAの正体を解明し、あわよくばノーベル賞を、とねらうのである。

科学朝日『ノーベル賞の光と陰』

2025年9月19日金曜日

錦上花を添える

コッホがこの理由による受賞を恥じたとは思えないが、彼としては、ジフテリアにくらべて人類にとってはるかに重大な疾患、結核の予防・治療法の発見により受賞し、自らの名声に錦上花をそえる(きんじょうはなを添える)ことが本望であったろう。

科学朝日『ノーベル賞の光と陰』

2025年9月17日水曜日

御託宣

日本人のように小柄で脚が短く、聰明で男らしい風貌の持ち主であり、いつも自信たっぷりの御託宣(ごたくせん)を下して「法王」とか「僧正」とあだなされた彼は、また内心の苦悩など絶対に他人にもらさない人でもあった。

科学朝日『ノーベル賞の光と陰』

2025年9月16日火曜日

きわもの

モアサンにとって、ダイアモンド合成は決してきわもの(際物)的テーマではなく、フッ素の研究の自然な発展であった。

科学朝日『ノーベル賞の光と陰』

2025年9月15日月曜日

一念岩をも通す

このあたりは女の一念岩をも通す(いちねんいわをもとおす)というほどで、篤姫のたいへんな意地を感じるところです。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

2025年9月14日日曜日

恬淡

天璋院様は、じつにお心広く、金銭にまことに恬淡(てんたん)たるお方であったと、のちのちに伝えられることになったのも、こうした点に由来しているのではないでしょうか。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

曲がりなりにも

曲がりなりにも(まがりなりにも)現人神とされる天皇の娘として生まれ育った人に、今日から徳川の人間になれ、夫を立てて自分は一歩ひいて生きろといっても、やはり無理があったのではないでしょうか。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

2025年9月12日金曜日

手元不如意

当時の公家は手元不如意(てもとふにょい)なため、和宮の姉の敏宮は住むところさえなく輪王寺宮門跡の里坊河原屋敷に仮住まいをしていました。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

2025年9月11日木曜日

御簾中

しかし、その有君に早く先立たれ、先にも述べたように、次にやってきた御簾中(ごれんじゅう)は謀略が絡んでいたため、ひどい目に遭いました。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

2025年9月10日水曜日

陸続

篤姫の輿が到着した後も行列は陸続(りくぞく)と続き、後尾はなお渋谷村を出立していませんでした。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

2025年9月9日火曜日

諄々と

こうしたことを諄々と(じゅんじゅんと)説いたのです。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

2025年9月8日月曜日

挺身

いまの時世は女ながらも国のために挺身(ていしん)し、重大な時局を乗り切ることが肝要と思われる。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

2025年9月6日土曜日

矜持

以後、薩摩は江戸幕府から鋭く睨まれながらも、独立王国のごとき矜持(きょうじ)を胸に抱き、琉球をも支配下に入れ、中央からの干渉をはね返すように独特の精神的文化的風土を培っていきます。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

2025年9月5日金曜日

蒲柳

篤姫の兄たちもやはりからだが弱く、患いがちな蒲柳(ほりゅう)の質でしたから、両親はからだを鍛える目的で子供たちを田舎の岩本村の別邸で過ごさせることにしたのです。

宮尾登美子『篤姫の生涯』

2025年9月4日木曜日

半値八掛け二割引き

「そんな話は、半値八掛け二割引き(はんねはちがけにわりびき)だ」田村の評価は厳しい。

池井戸潤『下町ロケット』

2025年9月3日水曜日

きっぷ

母は持ち前のなきっぷ(気っ風)のよさで、佃を励ました。

池井戸潤『下町ロケット』

2025年9月2日火曜日

弥縫策

妙な弥縫策(びほうさく)を講じるのも得策とは思えず、「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」とだけいい、その場を辞去するしかない。

池井戸潤『下町ロケット』

2025年9月1日月曜日

お座なり

「考えとくよ」佃のお座なり(おざなり)の返事にも、須田は背筋を伸ばして一礼した。

池井戸潤『下町ロケット』

2025年8月31日日曜日

人を食う

「部品、作ってもいいんじゃないの?」人を食っ(ひとをくっ)た調子で財前はいい、上目遣いで富山を見る。

池井戸潤『下町ロケット』

2025年8月30日土曜日

完膚無きまで

本件はナカシマ工業を完膚無きまで(かんぷなきまで)に叩きのめすチャンスだと思います。これからお話しするのは、そのための戦略です。

池井戸潤『下町ロケット』

2025年8月29日金曜日

荷が勝ち過ぎる

田辺の言い方に、「あのですね、先生」、と思わず佃は口を開いた。「この事件、少々荷が勝ち過ぎ(にがかちすぎ)ているということはありませんか」いましがたの裁判で喉が渇いたか、コーヒーと水を交互に口に運んでいた田辺の手が止まった。

池井戸潤『下町ロケット』

2025年8月28日木曜日

地合い

地合い(じあい)がよくないでしょう」根木の反応は冷たかった。

池井戸潤『下町ロケット』

2025年8月27日水曜日

糾合

筒井氏は、反幕思想を抱いて各地の同志を糾合(きゅうごう)しようと行動している彦九郎の家庭を破壊させることを企てていたのだ。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月26日火曜日

絶家

良沢にとって急がねばならぬことは、養子を得て家督を相続させることであった。もしもそれが果たせなければ絶家(ぜっけ)になるのだ。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月25日月曜日

愁眉を開く

玄白も、世情が平穏になったことに愁眉をひらき(しゅうびを開き)、定信の相つぐ新政策を歓迎していた。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月24日日曜日

糊塗

が、このような糊塗(こと)的な政策は根本的な解決とは程遠く、社会混乱は一層激化した。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月23日土曜日

知友

工藤は西洋医学に関心をもつすぐれた医師で潔癖な性格が良沢の意にかない、数少ない知友(ちゆう)の一人であった。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月22日金曜日

眼光炯々

体も大きく眼光炯々(がんこうけいけい)としていて、威圧され、恐ろしく思いました。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月21日木曜日

奢侈

源内の体は、衰弱していった。奢侈(しゃし)になれたかれの体は、牢内の惨めな生活に堪えられなかったのだ。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月13日水曜日

篤学

これも良沢らの篤学(とくがく)故だと断じ、感動の大きさを書きとめていた。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月11日月曜日

冷水を浴びせかける

そうした喜びにひたっていた玄白にとって、良沢の固辞は冷水を浴びせかけ(ひやみずをあびせかけ)られたような衝撃だった。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月10日日曜日

喧伝

ターヘル・アナトミアの翻訳事業は、オランダ医書を日本で初めて訳業に成功させた壮挙であり、たちまち玄白らの名は全国に喧伝(けんでん)されるにちがいない。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月8日金曜日

唾棄

このような傾向は唾棄(だき)すべきで、医家たちは本格的にオランダ医学を学ぶ態度をとるべきではないかと指摘していた。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月7日木曜日

俗諺

こうと決まれば、俗諺(ぞくげん)に善はいそげと申す。明日早速拙宅へお集り下され。工夫をこらして、このターヘル・アナトミアの翻訳を始めましょう。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月6日水曜日

つぐむ

老人は、かれらが異常な興奮をしめしていることに気づいた。その緊張した気配に、かれは口をつぐん(噤ん)だ。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月4日月曜日

蟷螂

良沢は、野獣を前に斧をふりあげて立ちむかう蟷螂(とうろう)の姿を連想した。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月3日日曜日

難詰

かれ自身も百日間でオランダ語を修得するなどとは思っていなかったが、それを幸左衛門に難詰(なんきつ)されてみると、あらためて自分の不遜さが恥じられた。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月2日土曜日

散佚

たしかに、私の家には貴重なデキショナールがつたわっておりましたが、それがどうしたわけか散佚(さんいつ)してしまっておるのです。

吉村昭『冬の鷹』

2025年8月1日金曜日

該博

良沢に無関心だった全沢は、急に態度を一変した。かれは、すすんで良沢に書物をあたえ、該博(がいはく)な知識を駆使して書物を解説する。

吉村昭『冬の鷹』

2025年7月31日木曜日

しばたたく

「ひどい風ですな。桜の蕾がほころぶ前で幸いでした」玄白が、土埃に眼をしばたたき(瞬き)ながら言った。

吉村昭『冬の鷹』

2025年7月30日水曜日

ひけらかす

良沢は、源内が知識をひけらかせ(ひけらかせ)て世間を驚かせることのみに専念しているように思えた。

吉村昭『冬の鷹』

2025年7月28日月曜日

世人

彼は、オランダ語の修得がきわめて困難であることを知ると同時に、世人(せじん)の手をつけぬこの分野に足をふみ入れてみたいという野心をいだいた。

吉村昭『雪の花』

2025年7月22日火曜日

隆昌

了玄は、長崎を中心とした蘭方の隆昌(りゅうしょう)について話し出した。そのなかには、シーボルトという医者の名も出た。

吉村昭『雪の花』

2025年7月21日月曜日

身じろぎ

その道を見下ろす川の土手の上に、しばしば姿をみせる二十七、八歳の男がいた。男は身じろぎ(みじろぎ)もせず立っていた。痩せた長身の男で、彫りのふかい日焼けした顔には鋭い眼が光っていた。

吉村昭『雪の花』

2025年7月20日日曜日

繰り言

もっとも母が今も生きていて、かたわらでしきりに老いの繰言(くりごと)をきかせていたら、息子はそれをわずらわしがったり、時には親を邪魔者扱いするにちがいない。

李恢成『砧をうつ女』

2025年7月18日金曜日

あずかり知る

かの女達はわが家に舞いもどると、あれこれ気ままな噂をするが、その辺は子供のあずかり知らぬ(あずかりしらぬ)所だ。

李恢成『砧をうつ女』

2025年7月6日日曜日

息巻く

相方には恋人ができて恵比寿で同棲を始め、結婚するのだと息巻い(いきまい)ていた。

又吉直樹『火花』

2025年7月1日火曜日

有象無象

その光景は華やかさとは無縁の有象無象(うぞうむぞう)が、泥濘に頭まで浸かる奇怪な絵図のようだった。

又吉直樹『火花』

2025年6月30日月曜日

閑却

この雑誌の中には人種差別というものは全くなく、驚くべきことにはそのために闘っている人々の記事さえないのだ。そういう意味では読者を啓発するということは閑却(かんきゃく)されている雑誌なのである。立身出世物語にしても、世の偏見といかに闘ったかという記録はなく、いかに彼に才能があったか、どうやってうまく金を儲けたかという話ばかりだ。

有吉佐和子『非色』

2025年6月29日日曜日

瞋恚

たかがスパゲティと黒い子供という言葉から始まった喧嘩にしては、引分けられてからも沸々と煮えたぎっている二人の瞋恚(しんい)は根が深すぎた。

有吉佐和子『非色』

2025年6月28日土曜日

捨て鉢

白人であっても竹子の夫と同じように酒や女に溺れ狂って捨鉢(すてばち)な生活にのめりこんでしまうのではないだろうか。

有吉佐和子『非色』

2025年6月27日金曜日

鼻をうごめかす

三人ばかりが鼻をうごめかし(はなをうごめかし)て「上品な」日本語を使ってみせたが、これは丁寧すぎてはなもちならなかった。

有吉佐和子『非色』

2025年6月26日木曜日

女衒

何をしているか分からない人だからね。女衒(ぜげん)みたいなこともやるって噂だから、心配したのさ。

有吉佐和子『非色』

2025年6月25日水曜日

臈たける

麗子は水色のワンピースに着かえて、この日殊更に臈たけ(ろうたけ)て美しく見えた。

有吉佐和子『非色』

2025年6月23日月曜日

パンパン

メリーちゃんのことですよ。ちゃんと結婚したと言っても、今は別れているとなればパンパン(ぱんぱん)でもしていたかと人は思うもの。

有吉佐和子『非色』

2025年6月22日日曜日

没交渉

節子がこの高円寺のアパートに現れたことはついぞ無かったし、考えてみると私がトムと結婚して以来というもの彼女の方から私を訪ねて来たことはなかった。殆ど没交渉(ぼっこうしょう)のままで、母の言う通り私は妹の存在を忘れていることがあった。

有吉佐和子『非色』

2025年6月21日土曜日

健啖家

トムは健啖家(けんたんか)だった。生野菜のサラダを一息で平らげ、肉はグチャグチャに切り細裂いてから右手にフォークを摑み直して、ビールを合の手に飲みながら勢よく食べていた。

有吉佐和子『非色』

2025年6月4日水曜日

たまゆら

太陽のぬくもりで、春の気配で、たとえたまゆら(玉響)でも人は幸福を感じることができるのはなぜだろう。

星野道夫『旅をする木』

2025年6月2日月曜日

所帯やつれ

所帯やつれ(しょたいやつれ)した昔の山仲間が、久しぶりに一緒になって、日高山脈の秘境ポロシリや、その山腹に抱かれた七ツ沼のカールを探訪する山旅の話である。

星野道夫『旅をする木』

2025年5月24日土曜日

面従腹背

面従腹背(めんじゅうふくはい)という言葉が侘しく脳裏をかすめ、辞表という刃で一人、自分に退陣を迫った壹岐の方が、まだしも血が通っているように思われた。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年5月22日木曜日

老醜

大門に退陣を勧めることは、棉花相場で目を掩うばかりの老醜(ろうしゅう)をさらけ出した時から心に決めていたことであったが、現役の社長に退陣を求めることは理屈を超えて至難の業であり、容易に成し得ることではなかった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年5月21日水曜日

千両役者

千両役者(せんりょうやくしゃ)のように、思い入れたっぷりに話した。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年5月20日火曜日

衒い

"ユナイテッド・モーターズの利益はアメリカの利益なり"と何の(てらい)もなく豪語する巨大企業を一発で仕留めるためには、この四十五階からの眺めは、確かにファイトが湧きますからね。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年5月19日月曜日

三顧の礼

大門社長に三顧の礼(さんこのれい)をもって迎えられ、繊維出身の近畿商事を石油開発まで手がける名実ともに業界第三位の綜合商社に飛躍させた壹岐副社長は、伊原にとってある意味では大門社長以上の雲上人であった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年5月15日木曜日

股肱

それもわし一人だけの判断では無うて、壹岐君も堂本君も、君の股肱(ここう)の臣の角田まで、君の病気を懸念し、壹岐君に至っては、いつ心臓発作が起るかも解らない人を使うのは残酷です、あたら有為の人の生涯をへし折るようなものですとまで云うたからな。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年5月13日火曜日

ありてい

事実は、兵頭と話し合ったように、万一の場合は、廃坑も予想される暗い先行であったが、大門にありてい(ありてい)に云えば、愚痴られるのが落ちであった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年5月12日月曜日

無節操

マスコミの無節操(むせっそう)さに呆れながらも、里井は始終、オリオン・オイルと組んで応札することに批判的だっただけに、全社沸きたつ喜びから取り残されたような侘しさを覚え、二日前の深夜、テヘランから一番札を取ったという第一報が入った時、壹岐をはじめ主だった役員は全員、大門が宿舎にしているホテルオークラへ招集されたにもかかわらず、副社長である自分には何の報せもなかったことが、屈辱的であった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年5月4日日曜日

嘱目

それにしても、君は昔から泰然として人を威圧する得な性分を備えている男だな、壹岐君が嘱目(しょくもく)する気持が解るよ。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年4月24日木曜日

懇ろ

金弥は、李が若い頃、(ねんごろ)だった芸妓であった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年4月16日水曜日

おっぱじめる

真珠湾攻撃で日本を戦争に追い込んだあの暴挙を、懲りもせずまたわが社でおっぱじめる(おっぱじめる)つもりか。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年4月14日月曜日

海のものとも山のものともつかない

しかし先にも云ったように資金使途が海のものとも山のものともつかない(うみのものともやまのものともつかない)石油開発となると、投資家は誰も金を出さない。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年4月9日水曜日

低廉

石油を安定的、低廉(ていれん)に確保するために、昭和四十二年、民間の企業が石油開発を行うに際して、当たるか、当たらないか全く解らない探鉱、試掘段階のリスク資金を、低利で融資、あるいは出資という形で援助するために設立された機関であった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月31日月曜日

宏壮

バザール以南の下町は、石油の恩恵に浴さない昔通りの貧しい階級が犇くように住み、北の山手にはロイヤル・ファミリーや政府要人の宏壮(こうそう)な邸宅が、こんもりとした緑に囲まれて建っていた。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月29日土曜日

瀬踏み

「どうしてもというのなら、チャンネルを替える意向があいることをちらつかせてみることだ、それで向こうの出方を瀬踏み(せぶみ)してから、今度はこっちが態度を決めるという戦法がいいだろう。」

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月24日月曜日

歯牙にもかけない

歯牙にもかけぬように云った。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月23日日曜日

とつおいつ

「吐き気、鳩尾が痛む? それじゃあ、精密検査を受けた方がいいよ、ともかくとつおいつ、気を病んでいることが、一番病気の因だからな」村山は、胃癌を懸念するような云い方をした。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月22日土曜日

紋切型

やや紋切型(もんきりがた)に礼を云うと、壹岐は耳もとで、「やはり八束君を同行させます、彼もそのつもりで来ているのですから」

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月20日木曜日

懐刀

里井が機械担当役員兼東京支社長だった時代から、調査企画面で何かと重用され、地味で目だたぬ存在ながらも五十歳で取締役、五十三歳で壹岐の後任の業務本部長のポストに任じられ、常務に抜擢されたのは、里井のひきがあったればこそで、角田もまた里井のためには、粉骨砕身、公私にわたって仕えて来、今では里井の懐刀(ふところがたな)と目されていることに、心ひそかな自負を持っているにもかかわらず、里井は自分にさえ狭心症の持病を隠し、最低の入院期間を無視してまで日本への帰国を急ぎ、すぐ仕事に取りかかろうとしている不自然なまでの強気に、こだわりを感じた。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月19日水曜日

不為

その言葉の裏には、そのかわり謀反を企てれば、自分が社長になった時、不為(ふため)になるぞという意味が、こめられていた。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月16日日曜日

一朝

壹岐には、それが一朝(いっちょう)ことある時は、掩体を取り除いて飛行機の滑走路に使うためであることが解った。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月14日金曜日

尾籠

やあ、鮫島さん、尾籠(びろう)なところで出くわしますねぇ。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月13日木曜日

身につまされる

それよりこんな激務をしてらして、独り身を通していらっしゃる壹岐さんのお姿を拝見していますと、亡くなられた奥様に対する深いお気持ちが解り、私、つい身につまされ(みにつまされ)て。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月9日日曜日

伍する

一昨年の春、アメリカ近畿商事の社長として赴任し、はじめてこの部屋に足を踏み入れ、窓際に立った時の圧しひしがれるような威圧感とともに、小なりとはいえ、アメリカ近畿商事のトップとして、世界的な企業に伍し(ごし)てゆかねばならぬ大きな責任感と、そうしたポストと機会を与えてくれた大門社長に対する感謝の念が、今さらのように壹岐の心に甦った。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月6日木曜日

口はばったい

口はばったい(口はばったい)ことを云うようですけど、壹岐さんの生活、もう少し肩の力を抜かなきゃあ、長い人生に息ぎれしてしまいますわよ。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月5日水曜日

腹蔵

そうですか、じゃあ、この際、私も腹蔵(ふくぞう)のないところを話しましょう。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年3月4日火曜日

人身御供

そりゃあ、仕方がないさ、ハリスならぬフォーク二世へ人身御供(ひとみごくう)にされるお吉は、さてどこの社だろうかねぇ。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月27日木曜日

倉皇

小牧はよほど驚いたらしく、倉皇(そうこう)と電話を切った。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月25日火曜日

乾坤一擲

まだ名前がついていないので、"一一五"と暗号で呼ばれていますが、一六〇〇cc、五人乗りのスポーツ・セダンで、御三家の中で落ち目の千代田自動者が、乾坤一擲(けんこんいってき)、これで社運を挽回しようとする命綱の新車なんですよ。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月24日月曜日

長尻

どうも、壹岐家へ伺うと、長尻(がなっちり)になって申しわけありません。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月23日日曜日

一将功成りて万骨枯る

会議のあと、一丸専務をはじめ、生えぬきの役員たちの数人が、私の部屋に来まして、これでは一将功成って万骨枯る(いっしょうこうなってばんこつかる)だと、憤慨しており、副社長である私も、これではやりにくくて、しょうがないですよ。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月18日火曜日

鎌首をもたげる

壹岐は"毒蛇"と仇名され、防衛庁の実権を一手に掌握している貝塚官房長が、こちら側の逮捕者が出るのを、鎌首をもたげ(かまくびをもたげ)て、じっと待っているのかと思うと、背筋に冷たいものが奔った。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月17日月曜日

聾桟敷

防衛部長の川又は、芦田の上司にもかかわらず、同じ檜町の空幕内にいる中央警務隊長からは、一言の報告も相談もなく、聾桟敷(つんぼさじき)に置かれ、警務隊の取り調べに芦田二佐がどの程度、自白し、どういう処分になるのか、全く解らなかったのだった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月16日日曜日

綿のよう

小出は綿のよう(わたのよう)に疲れ切りながら、もう何度も同じ答えを繰り返し、否定した。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月15日土曜日

泰然自若

兵頭は、三十五歳という齢に似ず、泰然自若(たいぜんじじゃく)とした風貌を備え、会社と自分の仕事をいつも十年先まで考えている逸材の一人であった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月12日水曜日

ぬきさしならぬ

そして気がついた時は、自分もその泥沼の中にどっぷり浸かり、ぬきさしならな(抜き差しならな)くなっている。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月11日火曜日

慇懃無礼

警察庁から出向して来ている官房長の秘書官の慇懃無礼(いんぎんぶれい)な声が、伝わって来た。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月9日日曜日

あたらずさわらず

日頃は熾烈な競争相手も、年に一度の懇親会とあって、極力、商売の話を避け、あたらずさわらず(当たらず障らず)の世間話をして、和気藹々の雰囲気を作っている。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月8日土曜日

豪放磊落

曾て空幕の調査課にいた小出にも、旧軍人らしい豪放磊落(ごうほうらいらく)な川又空将補の性格は解っていた。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年2月7日金曜日

衒い

一週間の会期中、もう何度、見て廻ったかしれないが、最初はいいと惹かれていた作品の中に、気負いや衒い(てらい)が目にたって来るものもあれば、何となく見過ごしていた抹茶茶碗や、壺に、心のぬくもりを感じはじめるものもあった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月31日金曜日

目端

さすがの大門も、空港での日系邦字新聞のカメラマンといい、荷物の積込みの素早さといい、万事に目端(めはし)のきくロス支店長の手配に気をよくし、冷房のきいたクリーム色のキャデラックに乗った。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月30日木曜日

焦げ付き

最初の一年目は一万俵の買付計画が見事に成功したので、二年目の昨年度は一俵百三十ドルの取りきめで五万俵の取引を行ない、既に八割の前渡金も投じていたところ、霜害発生で立ち枯れ、品質不良の大被害を蒙り、棉花栽培者に前渡金の半分の返却を交渉したものの、天然現象だからと撥ねつけられ、五百万ドルに達するこげつき(焦げ付き)をつくってしまったのだった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月26日日曜日

気宇

教官の中には、陸大のそうした教育の建前を忘れ、自分と異なる説を主張する学生を嫌う者もいたが、坂野郷之は公正で、優れた解答者には、「教官の及ばなかったところまで考えている」と、明言して憚らぬ気宇(きう)の大きさが、より学生に熱を入れさせ、自宅まで押しかけても、とことん学生とつき合うタイプであった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月25日土曜日

提灯がつく

ですが、社長、あと一息で利食いして逃げようとした潮時を、こうまんまとやられるとは思いませんでした、あの下げ方からすると、鬼頭社長に提灯筋がつい(ちょうちんすじがつい)て売りに入って来たところがあるんじゃないでしょうか。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月23日木曜日

とつおいつ

しかも、昨夜、壹岐にも女をあてがい、遊ばしてやろうとしても、固辞して家へ帰って行き、すべての点で、潔癖で身ぎれいさを持している壹岐の姿勢を思う時、さすがの大門も、どう切り出そうかと、とつおいつ、思いをめぐらせるばかりで、これという名案が思いうかばない。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月22日水曜日

出色

あの人は猛者揃いの防衛庁の中でも出色(しゅっしょく)の人物で、実に豪胆なんですね、あなたが防衛庁へ入らなかったことを残念がるあまり、わが社のことを、人攫い商社だなどと、人聞きの悪いことをおっしゃり、閉口しています。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月18日土曜日

釣書

丸長が唾を飛ばして、一気に喋ると、横合いから佳子が、写真と釣書(つりがき)を卓袱台の上に広げた。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月11日土曜日

眉目秀麗

曾て紅顔の美青年であった眉目秀麗(びもくしゅうれい)な顔は、眼が落ち窪み、頰が削げ、名乗らなければ解らぬ面変りのしようであった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月10日金曜日

索漠

同胞の中に身を置きながら、自分一人だけが異邦人のように扱われている索漠(さくばく)とした思いが、さらに神経を昂らせた。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月7日火曜日

首実検

紀尾井町の宿舎へ壹岐たちを首実検(くびじっけん)に来た時の平凡な法律家という印象とはうってかわり、裁判長をも睥睨するような眼付で、「検察団を代表して、お願い致したいことがあります、この証人は、(中略)」と云った。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月6日月曜日

曖昧模糊

やがて、壹岐は食事を終え、曖昧模糊(あいまいもこ)とした思考に疲れ果て、そのまま眠りかけると、扉が開かれた。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月5日日曜日

よすが

壹岐は、ジープの左右に眼を配り、ハバロフスクに残されている日本将兵の消息を探ろうとしたが、市街地のせいか、消息を知るよすが(縁)となるものは、何も見当たらない。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月4日土曜日

慚愧

その同じ時期に、自分たち司令部の参謀は、飛行機で一路、ハバロフスクに連行され、無為の日を送っていたのかと思うと、慚愧(ざんき)の思いが、胸を貫いた。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月2日木曜日

心に染む

見合いの席で会った浜田大将の令嬢は、彫りの深い美貌と明るい性格の女性であったが、言葉のはしばしに大将である父を意識し、暗に壹岐にも将来、大将になることを期待しているような様子が感じ取られ、それが息の心にそま(こころにそま)なかった。

山崎豊子『不毛地帯』

2025年1月1日水曜日

囂しい

シベリア鉄道の主要駅であるハバロフスク駅らしかったが、線路の間に紙屑が散乱し、人々が勝手に線路に渡り、それを静止する駅員の声がし、無秩序で囂しかっ(かしましかっ)た。

山崎豊子『不毛地帯』