2022年12月31日土曜日

富家

郷士は単に身分にすぎず、郷士には富家(ふか)もあったが、しかし桐野の生家は極貧であった。

司馬遼太郎『翔ぶが如く』

2022年12月29日木曜日

倦む

それが、西郷と大久保という、当時の日本の人材水準をはるかに越えた両人の英雄的活動によって革命主力となり、そのあざやかな手腕によって戦いに倦ま(うま)ぬまま革命を樹立させたのである。

司馬遼太郎『翔ぶが如く』

2022年12月20日火曜日

秋霜烈日

もっとも民権家になった沼間守一ばかりは、のちの河野の秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)的な国家擁護主義を、河野に限って許容し、許容したばかりか、たれをつかまえても馬鹿よばわりした沼間のようなうるさい男が、さきにふれたように、

司馬遼太郎『翔ぶが如く』

2022年12月18日日曜日

名状しがたい

その超人ぶりをうたわれたが、この超人ぶりは、日々の平穏のなかにこそ人生の価値を見出す立場からいえばは名状しがたい(めいじょうしがたい)不幸であるともいえる。

司馬遼太郎『翔ぶが如く』

2022年12月17日土曜日

枕頭

かれは枕頭(ちんとう)に鉛筆と紙をそなえておく癖があり、この思い浮かんだポリスについての解釈を書きとめた。

司馬遼太郎『翔ぶが如く』

2022年12月14日水曜日

国辱

その新聞を沼間守一がもってきて、そのくだりを指で叩いた。国辱(こくじょく)とは思わないかね、君、と沼間はいった。

司馬遼太郎『翔ぶが如く』

2022年12月11日日曜日

慫慂

それでも、本書の上梓にまでこぎつけられたのは、先学のさまざまな業績にみちびかれたこと、また、編集の任にあたられた永沼氏の根気強い慫慂(しょうよう)と励ましの賜物にほかならない。

大木毅『独ソ戦』

2022年12月10日土曜日

席巻

たしかに、ミンスクやキエフの包囲戦、あるいは北方軍集団がバルト海沿岸地域を席巻(せっけん)するに際しての諸戦闘で、ドイツ軍は敵に大打撃を与えはした。

大木毅『独ソ戦』

2022年11月13日日曜日

画餅に帰す

一九四一年七月のスモレンスク戦終了後、ドイツ軍指導部の多くは、国境会戦でソ連軍主力を潰滅させ、しかるのちに無人の野を行くがごとく、ヨーロッパ・ロシアの要地を占領するというもくろみが画餅に帰し(がべいにきし)たことを悟った。

大木毅『独ソ戦』

2022年10月1日土曜日

四通八達

フランスのように四通八達(しつうはったつ)した舗装道路もなければ、給油を可能としてくれる自動車交通用のガソリンスタンドも、ほとんどなかったのでさる。

大木毅『独ソ戦』

2022年9月18日日曜日

麾下

そのような強迫観念に囚われたスターリンは、内務人民委員部麾下(きか)の秘密警察を動員し、おのが先輩や仲間を含む、ソ連の指導者たちを逮捕・処刑させた。

大木毅『独ソ戦』

2022年9月11日日曜日

無謬

死せる独裁者に敗北の責任を押しつけ、自らの無謬(むびゅう)性を守ろうとしたのである。

大木毅『独ソ戦』

2022年6月18日土曜日

勇躍

その夕方勇躍(ゆうやく)彼女の家に着くと、あたりはもう暗くなっているのに玄関の明かりはついていなかった。

R. P. ファインマン (大貫昌子訳)『困ります、ファインマンさん』

2022年5月22日日曜日

再読三読

上下二巻、合計千数百ページという、ぶ厚いものである。再読三読し、おおよそのことはわかった。

星新一『明治の人物誌』

2022年5月8日日曜日

梁山泊

しかし、実体は梁山泊(りょうざんぱく)で、ぴんからきりまで、わけのわからぬ連中が出入りしていた。

星新一『明治の人物誌』

2022年5月5日木曜日

花柳界

そして、象二郎が八ヶ月の外遊をおえて帰国すると、猛太郎は以前のごとく、新橋、柳橋の花柳界(かりゅうかい)で、酒よ芸者よと遊びに浸っている。

星新一『明治の人物誌』

2022年5月4日水曜日

三百代言

上海事変に関する当局の声明は、三百代言(さんびゃくだいげん)的と言うほかはない。

星新一『明治の人物誌』

2022年5月3日火曜日

才子

これによって彼の性格から才子(さいし)的な面が消え、悩みからは解放され、希望を持てるようになったのである。

星新一『明治の人物誌』

2022年4月30日土曜日

放胆

父は放胆(ほうたん)な男で、かまうことないから、思い切ったことをやれと、いつも自分に言ったものだ。

星新一『明治の人物誌』

2022年4月25日月曜日

馬脚

こんな立派な計画も、すぐさま馬脚をあらわし(ばきゃく)た。

星新一『人民は弱し 官吏は強し』

2022年4月17日日曜日

恬淡

しかし、名声は高くても、彼は金銭に恬淡(てんたん)な性格のため、少しも金の用意がなかった。

星新一『人民は弱し 官吏は強し』

2022年4月16日土曜日

ふところ手

他人が汗を流すのをふところ手(ふところで)で眺めていて、その成果を横取りしようとする連中のほうが悪い。

星新一『人民は弱し 官吏は強し』

2022年4月12日火曜日

治績

後藤はその企画力と実行力によって、都市計画に交通に産業に、着々と治績(ちせき)をあげていた。

星新一『人民は弱し 官吏は強し』

2022年4月6日水曜日

一朝

一朝(いっちょう)事あらば滑走路にでも早替りしそうな堅固な道路の左手にフェンスが連なりはじめた。

山崎豊子『運命の人』

2022年4月4日月曜日

旧態依然

職務上知り得た秘密情報は、墓場まで持って行くというのが外務官僚の美学らしいが、国家の情報は誰のものかという意識に欠け、三十年近く経った今なお旧態依然(きゅうたいいぜん)とした秘密主義には、呆れるばかりだった。

山崎豊子『運命の人』

2022年4月3日日曜日

矜持

由里子は、答えようがなかったが、夫を信じているという矜持(きょうじ)が、自分を支えているのかもしれない。

山崎豊子『運命の人』

2022年3月26日土曜日

僥倖

帰国を一カ月後に控えたこの僥倖(ぎょうこう)を、我楽は今まで考えたことも無い神に謝した。

山崎豊子『運命の人』

2022年3月25日金曜日

ほだす

弓成の熱意にほだされるように、云った。

山崎豊子『運命の人』

2022年3月24日木曜日

現金

入場して来た時の勢いはどこへやら、スタコラと逃げる赤牛の現金(げんきん)さに、敗ければ敗けたで惜しみない歓声が上った。

山崎豊子『運命の人』

2022年3月20日日曜日

甲斐性

だけどミチとの二人暮らしで、そんな甲斐性(かいしょう)はないからね。

山崎豊子『運命の人』

2022年3月15日火曜日

稚気

作業中とは別人の稚気(ちき)を含んだ表情だった。

山崎豊子『運命の人』

2022年3月13日日曜日

苛む

長い間、アメーバ赤痢に 苛まれ(さいなまれ)餓え、先生の巨軀と強靭な体力であればこそ、今まで持ちこたえて来られたのだろうが、もう自ら手足を動かせる余力さえ残っていないのかもしれない。

山崎豊子『運命の人』

2022年3月12日土曜日

逡巡

逡巡(しゅんじゅん)の挙句、ペンを動かした。

山崎豊子『運命の人』

2022年3月6日日曜日

忸怩

東京の妻への手紙を書くためだったが、なかなか文言が出て来ない、長年にわたって音信を断ち、由里子が現在、どうしているか解らない自分の無責任さに忸怩(じくじ)とするばかりだった。

山崎豊子『運命の人』

2022年3月1日火曜日

披瀝

弓成記者のことを尊敬している者もいるでしょうから、役場へ行って自分の気持ちを披瀝(ひれき)すれば、了承してくれると思いますよ。

山崎豊子『運命の人』

2022年2月21日月曜日

五月雨式

さみだれしき】off and on manner; intermittent style; dragging on and on

五月雨式に申し訳ございません。受講期日が 令和2年3月8日(金)とお知らせしましたが、締め切りに関わらず、速やかに受講していただくようお願い申し上げます。

2022年2月19日土曜日

英会話クラブの先輩でもあった(よしみ)から、由里子が話した苦境をよく理解してくれ、ともかく数カ月、うちの塾へ通ってノウハウを覚えないさいよと云ってくれた。

山崎豊子『運命の人』

2022年2月16日水曜日

侃々諤々

諤々(かんかんがくがく)の険しい雰囲気の中、高検の増見検事が、太い声を一層、大きく張り上げた。

山崎豊子『運命の人』

2022年2月15日火曜日

十把一からげ

一審の判決は、電信文の実質秘性、報道機関の公共的使命、取材の許容範囲など、それぞれ別々に比較衡量出来ないことを、十把一からげ(じっぱひとからげ)にして総合判断を導き出している点がおかしいと批判的ですね。

山崎豊子『運命の人』

2022年2月13日日曜日

魔性

弓成は、三木昭子にひそむ魔性(ましょう)を見る思いがした。

山崎豊子『運命の人』

2022年2月12日土曜日

経綸

致命的なのは総理大臣の経綸(けいりん)を著しく欠いていることだ。

山崎豊子『運命の人』

2022年2月11日金曜日

今太閤

政権発足まだ半年余で、今太閤(いまたいこう)ブームは冷めていないが、政商の小佐田はじめ胡散臭いのが周囲に出はじめ、金権政治ふんぷんだ、長期政権は見込めないな。

山崎豊子『運命の人』

2022年2月6日日曜日

通暁

森検事は、外交にも経済にも通暁(つうぎょう)した証人を強く印象付けてから、軽く咳払いした。

山崎豊子『運命の人』

2022年2月5日土曜日

一縷

だが警視庁の取調べがそれで済むとも思えない反面、三木の聡明さに一縷(いちる)の望みをつないでいた。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月30日日曜日

歴と

私は三木さんのご経歴を調べ、ご親戚筋に外務省のエリートだった方もいらしたことも知りました、歴と(れっきと)した方なのに、まるで奥さんのヒモ呼ばわりされ、名誉毀損もいいところです。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月29日土曜日

衒い

「私は」そういう切り口でこの事件は見るべきではないと思うんです」衒い(てらい)のない口調で話した。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月27日木曜日

饐える

先刻まで、饐えた(すえた)匂いの充満している留置所の房の中で、体を丸め、絶望と孤独に打ちひしがれていたことなど、微塵も感じさせない堂々とした口調で挨拶した。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月23日日曜日

手を拱く

君がそこまで感じるのなら、手を拱いて(てをこまねいて)いる場合じゃないな、かくなる上は十時長官に直に会見を求め、もっとはっきりした感触を掴むべきだな。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月16日日曜日

懊悩

翌午前五時半起床時刻まで眠れぬ夜に、弓成は懊悩(おうのう)した。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月15日土曜日

流言蜚語

検事さんでも、そんな政界雀の流言蜚語(りゅうげんひご)に惑わされるのですか。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月10日月曜日

痛飲

昨年十一月末頃、あなたは新宿の小料理屋で横溝議員と痛飲(つういん)されていますよ。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月9日日曜日

鱶のように

編集局を横切り、廊下を隔てた向かい側の宿直室を覗くと、二段ベッドが六列、並んだそこここに、泊りの記者たちが鱶のように(ふかのように)眠り込んでいる。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月8日土曜日

隔靴掻痒

ニュースソースの関係で、自身が記事にする時さえ、はっきり書けず、隔靴掻痒(かっかそうよう)の思いでいるのですから、お渡しすることは出来ませんね、政治家は政治家なりの方法で、この密約を暴いて下さいよ。

山崎豊子『運命の人』

2022年1月1日土曜日

生き馬の目を抜く

純粋な生き方しか出来ない父に、生き馬の目を抜く新聞の世界で、抜いた抜かれたのスクープ合戦に明け暮れる夫の仕事についての心配を話したところで、心を痛めるだけかもしれない。

山崎豊子『運命の人』