栄耀栄華(えいようえいが)と滅亡の歴史の中で死んでいった人々の墓は崩れて、石杭のように僅かに残り、霊廟も柱だけが俤をとどめて累々と続き、やがて大地に埋もれている。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
私たちの今の要求は、これまでが低賃金であったため、正当なものであるが、一気に、一律定額四千円プラス、基本給二〇パーセントのアップ、諸手当の最大割増率二〇パーセントの要求は、世間から見れば非常識の誹りを免れない(そしりをまぬがれない)と思う。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
云われるまでもなく、昨年の十二月、日経連専務理事から、労務対策の手ぬるさを指摘され、組合執行部を制するには、毒を以って毒を制す(どくをもってどくをせいす)の術で、転向者の堂本信介の登用を示唆されたのだった。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
「労務担当として申し上げたいのは、あくまで現実に即した要求を出し直して戴きたいということです」 「それでは、われわれの要求が非常識だと云われるのですか」 「——言葉通りです」 木で鼻を括る(きではなをくくる)ように、答えた。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
いよいよ、海外渡航の自由化と、東京オリンピックを控え、今年あたりから、航空業界の本格的な需要が予想される、こういう時こそ会社と組合は強調し、労使一丸となって、世界各国の航空会社に伍して(ごして)行ける体力作りを、大きな目標にしたいと思っています。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
半ば、侮るように云ったが、恩地は、その転向組ならばこそ、手強い——、転向者なるが故に、労使対決の"踏み絵"を踏み、会社への忠誠心を披瀝(ひれき)しなければならぬ立場におかれるからだった。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
アフリカの地の果てとも云われているラゴスの市場調査は、国民航空にとって何ら必要のないことであるにもかかわらず、ものものしく、出張期間を指定してまで、自分を行かせようとする真意は、奈辺(なへん)にあるのだろうか。
山崎豊子『沈まぬ太陽』