あまりにも大袈裟な言葉に、一瞬、座が白けかけたが、立錐の余地もない(りっすいのよちもない)ほどの場内の騒めきにかき消された。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
南専務は、命令が出た限りは、従うより他ないという意見です、もともと、心情的に恩地シンパ(しんぱ)なのです、せっかく、アカの親玉黴菌の恩地を、今日まで島流しにしてきたというのに、沢泉という子黴菌が育って、一人前のことをはじめたかと思うと、腸(はらわた)が煮えくり返ります。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
これも、証人尋問のしんがりを務めた恩地さんの声涙ともにくだる(せいるいともにくだる)証言と、その後、沢泉君が中央執行委員長として、会社の差別政策を止めさせるよう、早期に命令を出してほしいと訴えた結果だよ、よくやった。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
全面的に協力するからと、私を委員長に口説き落とした八馬さんがその舌の根も乾かぬうちに(したのねもかわかぬうちに)、団交の席でテーブルを挟み、労務課長としてわれわれと対峙したからです。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
「はじめまして、私は国民航空のナイロビ営業所に赴任しました恩地元です」と挨拶すると、二メートル近い大柄な社長は、鷹揚(おうよう)に革張りの椅子から立ち上がり、手をさしのべた。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
「前にも話したように、君の人事は私の権限外のことだから、理屈を並べても時間の無駄だ、間違っていようが、いまいが、辞令が出てしまえば、従うより他ないね」引導を渡す(いんどうをわたす)ように、云った。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
日本では、ロイヤル・ファミリーに対して幻想を持ち過ぎだ、ロイヤル・ファミリーの名のもとに、利権を貪る魑魅魍魎(ちみもうりょう)の集団に過ぎない、そんな実態を知らず、妙な政治判断を下す前に、なぜ、現地支店長たる私に知らせなかったんだ、ここから先は、現地で一切取り仕切るから、本社で勝手な決定をしないで貰いたい。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
委員長はお祭り男で有名な畑辰造、副委員長は策士の甘粕一夫、書記長に至っては、口八丁手八丁(くちはっちょうてはっちょう)で、黒を白と云いくるめるペテン師の美原譲治、この三人を見れば、会社に舁がれた臆面もない御用組合であることは明らかだ。
山崎豊子『沈まぬ太陽』
「それがペルシア商法というのなら、汚すぎる、これが普通なら、以後、あんたとのつき合いは不快だから止める!」と面罵(めんば)し、フラットを出て、車に戻ったが、なかなか、エンジンは、かからない。
山崎豊子『沈まぬ太陽』