2024年2月28日水曜日

海千山千

孝平は、こんな海千、山千(うみせんやません)の金を追いかける商人たちの中で、激しく揉みぬかれながら、強靭な商人のかけひきを学び取っていた。

山崎豊子『暖簾

2024年2月26日月曜日

尻からげ

お前、せっかくしたけどこれ逆結びや、こんな結び方やったら運送屋も受け取ってくれへん、旦那の兵児帯みたいにすぐ解けてしまうわと、いきなり尻からげ(しりからげ)して、荒縄をとってぐっとしごき、片足を荷物にかけてくっくっと結び目を固めて行った——。

山崎豊子『暖簾

2024年2月25日日曜日

応召

三男の忠平も昭和十八年の初めに応召(おうしょう)した。一軒の家から三人も出征し、名誉の戦死者まで出たので『忠勇の家』と貼紙され、吾平は町会から銃後奉公部長に任命された。

山崎豊子『暖簾

2024年2月24日土曜日

一角

本家の旦那はんが死に際に、吾平、浪花屋の暖簾大事にしてやといいはった、百貨店まで進出できたのも老舗の暖簾あってこそや、船場に奉公して、船場商人のしきたりの中で一かど(ひとかど)の商人になったわいや、店先の暖簾ははずされへん。

山崎豊子『暖簾

2024年2月23日金曜日

朴訥

朴訥(ぼくとつ)ではあるが、真面目で真剣な挨拶であった。

山崎豊子『暖簾

2024年2月21日水曜日

正鵠を得る

吾平の言葉は、捜査主任の期待していた答えと違ったが、正鵠を得(せいこくをえ)たものだった。

山崎豊子『暖簾

2024年2月20日火曜日

左前

先代の旦那はんの死後、左前(ひだりまえ)であることは聞き知ってはいたが、こんなににべなく断られるとは思わなかった。

山崎豊子『暖簾

2024年2月19日月曜日

阿鼻叫喚

蒸されるような熱気と、濛々と吹きつける土煙りの中で、人の波が渦巻き、阿鼻叫喚(あびきょうかん)であった。

山崎豊子『暖簾

2024年2月18日日曜日

贅六

大阪贅六(ぜいろく)が——と、ぬれ手に粟をつかむように、ボロ儲けすると思われていた大阪商人の蓄財の道は、一にも二にも節約(しまつ)、節約だった。

山崎豊子『暖簾

2024年2月17日土曜日

辛気臭い

いえ、こんな辛気くさい(しんきくさい)こと、一向性に合え致しません。

山崎豊子『暖簾

2024年2月13日火曜日

目鼻がつく

自分の研究に目鼻がつか(めはながつか)ないことに、じりじりしていた。

湯川秀樹『旅人

2024年2月11日日曜日

文人墨客

文人墨客(ぶんじんぼっきゃく、ぶんじんぼっかく)が、ここに足をとどめた時代もあったらしい。

湯川秀樹『旅人

2024年2月10日土曜日

多事多端

昭和7年、すなわち一九三二年は、物理学界にとって、——私自身がそうだったより以上に、多事多端(たじたたん)な一年であった。一つだけでも画期的な発見といってよいような事件が、三つも続けざまに起った。

湯川秀樹『旅人

2024年2月9日金曜日

狂瀾怒濤

しばらくは比較的、平穏な時期が続いていた。ところが突如として、再び狂瀾怒濤(きょうらんどとう)が起こった。そして、いよいよ私自身も、その中に巻きこまれることになったのである。

湯川秀樹『旅人

2024年2月8日木曜日

諫言

譲三郎の父は一徹な人であったらしく、主人に諫言(かんげん)して容れられず、切腹を仰せつけられた。

湯川秀樹『旅人

2024年2月7日水曜日

おぼこ娘

私の方の印象では、彼女は無邪気で、世間的な苦労は全然知らないおぼ(おぼこむすめ)としか思われなかった。

湯川秀樹『旅人

2024年2月6日火曜日

碩学

それと同時に、世界的な碩学(せきがく)というにふさわしい、見識の高さに敬服した。

湯川秀樹『旅人

2024年2月5日月曜日

まごうかたない

東向きの中央入口には、今は工学部燃料化学教室という看板がかかっている。しかしこれこそまごうかたない(紛う方ない)、かつての日の理学部数学、物理学教室である。

湯川秀樹『旅人

2024年2月4日日曜日

弊衣破帽

弊衣破帽(へいいはぼう)、いわばバンカラな三高生や京大生が、飯屋に借金を作る。

湯川秀樹『旅人

2024年2月3日土曜日

手ぐすねを引く

新人を一人でも多く、自分の部に入れようと手ぐすねひい(てぐすねひい)て待っているのである。

湯川秀樹『旅人

2024年2月2日金曜日

古色蒼然

その日から私は子供らしい夢の世界をすてて、むずかしい漢字のならんだ古色蒼然(こしょくそうぜん)たる書物の中に残っている、二千数百年前の古典の世界へ、突然入ってゆくことになった。

湯川秀樹『旅人

2024年2月1日木曜日

気骨が折れる

私は不精者だし、日本人同士のつき合いでさえも、面倒くさく思うことが多い。まして外国人とのつき合いは、気骨が折れる(きぼねがおれる)ばかりである。

湯川秀樹『旅人