2025年3月20日木曜日

懐刀

里井が機械担当役員兼東京支社長だった時代から、調査企画面で何かと重用され、地味で目だたぬ存在ながらも五十歳で取締役、五十三歳で壹岐の後任の業務本部長のポストに任じられ、常務に抜擢されたのは、里井のひきがあったればこそで、角田もまた里井のためには、粉骨砕身、公私にわたって仕えて来、今では里井の懐刀(ふところがたな)と目されていることに、心ひそかな自負を持っているにもかかわらず、里井は自分にさえ狭心症の持病を隠し、最低の入院期間を無視してまで日本への帰国を急ぎ、すぐ仕事に取りかかろうとしている不自然なまでの強気に、こだわりを感じた。

山崎豊子『不毛地帯』

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