2023年11月30日木曜日

雪隠

寄合で使う座敷とは逆の方向に向かっており、雪隠(せっちん)の前を通り過ぎ、さらに庭へ下り立つ。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月28日火曜日

剣呑

「女将しゃん」剣呑(けんのん)な声がした。弥右衛門が水を掻くような手つきで駈け寄ってくる。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月27日月曜日

胡乱

地役人に知り合いの一人も作れぬものかと江戸町に足を運んでいるのだが、詰所の中を覗くだけでも胡乱(うろん)な目つきをされる。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月26日日曜日

目端がきく

最初はえろう堅物な男やったばってん、近頃はなかなか目端もきく(めはしもきく)とよ。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月25日土曜日

そぞろ歩き

おなごが暢気に、そぞろ歩き(そぞろあるき)ばする通りじゃなかぞ。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月24日金曜日

才覚

昔は自在に交易できたばい。才覚(さいかく)さえあれば、異人とでも好いたように渡り合えた。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月23日木曜日

屋台骨

大浦屋は船持ちの油商やった。油商いのかたわら唐人や葡萄牙人相手の交易もして、商いの屋台骨(やたいぼね)を太うした。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月22日水曜日

首肯

「その昔は、大浦屋も船ば持って交易しとったとよ」 お希以が大声で「船」と尻上がりに訊き返すと、祖父は「ん」と首肯(しゅこう)した。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月21日火曜日

悠々緩々

竹谷家は「河仁」の屋号で通る老舗で大浦屋と同じ油商であったが、財の充実した先代が暖簾を仕舞い、市中の方々に持つ土地や長屋を貸して悠々緩々(ゆうゆうかんかん)の暮らしを続けている。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月20日月曜日

肝煎り

それよりも問題なのは、大浦屋の当主の不在であった。姉や親戚が案じて談合を重ねるうち、町内の顔役の肝煎り(きもいり)で縁談がもたらされた。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月18日土曜日

料簡

お希以は己で何とかしよる、この家も位牌も何とかしてくれる。そんな料簡(りょうけん)だったとしか思えないのだ。でなければ、あんなふうに鼠のごとく去れるわけがない。お希以も我が娘であるのに一顧だにせず、脇目も振らず。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月17日金曜日

波止

嘉永六年六月末の今日、待ちに待った阿蘭陀の商船が訪れる。毎年、その入津を出島近くの大波止(はと)で見物がてら出迎える町人は多い。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月15日水曜日

無頼漢

伊藤が、いま、あつまっているのは、八割が無頼漢(ぶらいかん)どもだ、と放言したといううわさがつたわったが、それは強がりとしか思われなかった。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月14日火曜日

籠絡

この人心動揺のさい、詔勅をだしても、挽回はおぼつかない。いいかえれば、人心の多数を政府に籠絡(ろうらく)することおぼつかない。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月13日月曜日

天衣無縫

よく、外国から帰ってきた人たちは、外国じこみのスマートな身なり、身のこなしを身につけていたのに、TN君には、そうしたところがない。彼は、そうしたこととは無縁で、知っている人たちから自然児とあだなされたほど天衣無縫(てんいむほう)だった。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月12日日曜日

燎原の火

TN君は、板垣に、そう答えて笑い、いまのところ出版するつもりがないといった。そのかわり、学生のノートが、つぎつぎと書き写され、日本中にひろまっていくのを、じっと見つめていた。それは、まったく燎原の火(りょうげんのひ)という表現にふさわしい、いきおいだった。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月11日土曜日

公僕

王様は主権者でなく、人民が主権者なので、たとえ王様を人民がみとめたとしても、自分のあるじとしてではなく、公僕(こうぼく)としてみとめるだけなのである。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月10日金曜日

場末

だが、それらがいま、どんなふうに庶民のこころのなかで生きているかは、場末(ばすえ)の居酒屋の口論のなかで知ったのだった。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月9日木曜日

嬲り者

恩地は再びそこに身をおき、魑魅魍魎の輩に嬲り者(なぶりもの)にされ深傷を負った心を癒し、大自然の営みの中に跪いて、教えを乞いたかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月8日水曜日

面従腹背

だが、長年巣喰う魑魅魍魎は、人事の公正、組合統合、財務面の乱脈をも正そうとした国見に対し、面従腹背(めんじゅうふくはい)で、会長追い出しを謀った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月7日火曜日

澎湃

突然の国見会長の辞任は、現場に大きな衝撃を齎し、直接、会長の口から話を聞きたい、という声が、澎湃(ほうはい)として起った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月5日日曜日

立錐の余地もない

その日の夕方、羽田のオペレーションセンターの講堂は、制服姿の機長をはじめとする乗員、スチュワーデス、作業衣の整備士やスーツ姿の一般地上職が集まって、立錐の余地もない(りっすいのよちもない)ほどであった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月4日土曜日

宿痾

そもそも国見会長には、国民航空の宿痾(しゅくあ)である労務問題を打開して貰うため出馬願ったのに、社内最大の組合と真っ向から対立し、批判の声明を出されて以来、ごたごた続きで、以前より組合間の対立が深刻化したと評する向きもある。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月3日金曜日

麗々しい

「副総理の益々のご健康を念じて、北京から自社便で取り寄せたものでございます」と云い、麗々しい(れいれいしい)包装の箱を差し出したが、その中には竹丸が取りまとめる閣僚の謝礼分と共に、野党対策費も入っていたのだった。

山崎豊子『沈まぬ太陽