2023年7月31日月曜日

百鬼夜行

そのためには、百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)の族議員にも、運輸大臣にも悟られず、極秘裡に総理の"影の参謀"と云われる男を介して、一挙にことを決めてしまうことであった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月30日日曜日

怨嗟

政局が混沌とする中で、巧みにキャスティングボードを握り、田沼派と妥協することによって、多くの政治家の怨嗟(えんさ)と羨望を浴びながら、総理の座に就くことが出来たのだった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月29日土曜日

森閑

総理執務室は、もの音一つせず、森閑(しんかん)としている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月28日金曜日

鼎の軽重を問う

だが、何としても、年内には国民航空の新体制をスタートさせなければ、首相としての鼎の軽重を問わ(かなえのけいちょうをとわ)れかねない、ここは急いで戴きたい。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月25日火曜日

自己を克明に再現するような口述に、場内は(しわぶき)一つなく、静まりかえった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月24日月曜日

慇懃

対応に出て来たのは、スーパーバイザーのマッカリーで、如才なく慇懃(いんぎん)であったが、すべて事務的にことを運んだ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月23日日曜日

洒脱

学者には珍しい洒脱(しゃだつ)な味のある武矢の家には、何事も秘密主義の事故調では聞けない解説や実験結果を聞きに、しばしば記者たちが訪れる。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月22日土曜日

我関せず焉

四人の委員たちはうんざりして顔を見合わせ、我関せず焉(われかんせずえん)と自分の仕事に戻った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月21日金曜日

お為ごかし

「私がとやかく申すことではありませんが、権威であられる先生方に混って、各航空会社の乗員、客乗の諸組合、その上部団体の幹部など、やけに組合関係者の応募が目だちますね、こういう連中は、どんな事故の場合でも、事故調に偏見を持って、異論を唱えて来ますから、除外ということにしないと、矢武先生、大へんですよ」お為ごかし(おためごかし)に云った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月20日木曜日

蒼惶

古溝は、さすがにいたたまれず、蒼惶(そうこう)と帰って行った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月19日水曜日

痛痒を感じない

裁判沙汰になれば、国民航空には腕利きの高名な顧問弁護士がずらりと控えているから、特に痛痒は感じない(つうようはかんじない)が、訴えられては、"補償交渉のプロ"と評価されている自分の名前に傷がつく。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月18日火曜日

鵜の目鷹の目

それにしても、まだ話合いも進めていない夫の補償金に、親弟妹が、鵜の目鷹の目(うのめたかのめ)なのを知るにつけ、お金が人の心をこれほど変えるものなのかと思い知らされた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月17日月曜日

塗炭の苦しみ

国民航空が、真剣に遺族との補償交渉に取り組もうとするなら、定年前や窓際族の社員より、会社の将来を担うエリートが、事故の凄惨さと遺族の塗炭の苦しみ(とたんのくるしみ)、そして遺族と会社との板挟みになっている補償係の立場を理解してこそ、誠意ある補償と安全に対する心構えができる——、それが恩地の補償に対する考えであった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月16日日曜日

安穏

東京本社で、日常業務だけで安穏(あんのん)と過ごしている者が沢山いるではないかという思いは、誰にだってある。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月15日土曜日

一席ぶつ

室長をさしおいて、一席ぶっ(いっせきぶっ)たが、恩地は、その言葉を遮った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月14日金曜日

なまなか

あの三人は、れっきとしたわが社の社員でありながら、ニューデリー、モスクワ、羽田沖など、事故の補償金算定一筋で、なまなか(なまなか)の保険屋より遥かに専門家だよ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月13日木曜日

人でなし

それまでじっと耐えていた夏子が、不意に仏壇に向かい、「私をおいて、死ぬなんて、人でなし(ひとでなし)!」と云うなり、泣き崩れた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月12日水曜日

おざなり

私の気持が、どう解るのよ、おざなり(おざなり)なこと云わないで。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月11日火曜日

頰かむり

だが事故調が独立機関とはいえ、存立の基礎が運輸省にある日本の実情では、委員長が、運輸大臣に建議を行うことは行政絡みから微妙であり、一つ間違えば日米間の大きな問題にも発展しかねないだけに、米国側と良好な関係を保ちたい運輸省としては、頰かむり(ほおかむり)しておきたい心中がみえみえであった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月10日月曜日

虫養い

部長の行天以下、通常の二倍の数で対応していた部員たちはコーヒーや、ビールのおつまみ、サンドイッチなどで虫養い(むしやしない)しながら、事故を取り上げるテレビのニュース番組や報道特集を見、ビデオに録画して、明日のコメントに備える体制を取っていた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月9日日曜日

悄然

恩地は悄然(しょうぜん)としてたち上り、部屋を出かかると、ホテルの浴衣を着た中年の男性がたちはだかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月8日土曜日

粛然

側にいる従兄も泣き、周りの人たちも、粛然(しゅくぜん)としてたち尽した。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月7日金曜日

滂沱

津慶の眼から滂沱(ぼうだ)と涙があふれ、なおも号泣し続けた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月6日木曜日

誰何

看護婦詰所と隣接する病室の前には、警察官がものものしく警備をしていたが、誰何(すいか)されることなく、病室へ潜り込むことが出来た。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月5日水曜日

言下

入院先の院長に面会を頼み込んだが、無理ですと、言下(げんか)に拒絶されたのだった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月3日月曜日

一粒種

この一二三便には、長男夫妻と、一粒種(ひとつぶだね)の孫が乗っている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月2日日曜日

小賢しい

背の低さを隠すために、いつもヒールの高い靴を履いて、国会内を走り廻るいやな相手であったが、運輸委員会で、些細なことを大袈裟な問題にして、小賢しい(こざかしい)質問をされることを思えば、ご機嫌を取るくらい、わけはない。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月1日土曜日

一挙手一投足

だが、恩地だけは瞬きもせず、堂本の一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)に眼を凝らしていた。

山崎豊子『沈まぬ太陽