だからと云って、私がその電信案をコピーして、社進党へ渡すなど、天地神明(てんちしんめい)に誓ってございません。
山崎豊子『運命の人』
高床式正殿の緑青の大屋根が真一文字に空間を切り、白壁と茶褐色の柱と梁の三色で統一された正殿は、簡素で荘重な日本の伝統美を凝縮した佇まい(たたずまい)である。
やや固い表情だった愛池大臣は、新聞記者たちを意識したのか、俄かに、にこやかな笑顔を作り、偉丈夫(いじょうふ)のロジャード長官と握手しながら、大きなゼスチャーで、別れの言葉を述べた。
ロジャード長官と愛池大臣は会談の三十分遅れなど噯にも出さず(おくびにもださず)、当たり障りのない挨拶を交した。