久子の洒脱(しゃだつ)なたとえで、ようやく溜息の色が見えた。
浅田次郎『終わらざる夏』
それは比類なきヒーローである元帥が、たまさか人間に戻る一瞬であった。
浅田次郎『日輪の遺産』
あの奸物(かんぶつ)を怖れるのではない。
まるでさわが結婚式を上げる花嫁御寮のような動揺のしかただった。
新田次郎『孤高の人』
老人がいまわのきわに投げ出した手帳である。
一年の掉尾(ちょうび、角川文庫単行本による振り仮名はとうび) を飾る有馬記念競争(グランプリ・レース)は中山競馬場で行われる。
二年間の無音(ぶいん)などまるで意に介さず、安藤は微笑で片岡を迎え、思いもよらぬ凶報にも心を動(ゆる)がさなかった。
事務所に入るなり、誰もがまず紙包みの厚さに瞠目(どうもく)した。
勘弁してくれ、あの参謀殿はそんじょそこいらの天保銭(てんぽうせん)とはわけが違う。
あの郵便局長の言葉を、なぜ深く斟酌(しんしゃく)しなかったのだろうか。
マッカーサーは絨毯の紋様や壁のレリーフや、照明器具の細工やステンドグラスにまで巧みに図案化された不死鳥の意匠を、ためつすがめつ見つめていた。
-- 浅田次郎『日輪の遺産』