道一本隔てたその向こうがシャンゼリゼ大通りである事など感じさせない静謐(せいひつ)さである。
山崎豊子『運命の人』
今、振り返ってみると、官房長時代の小平を取り巻いていた各社の記者の中、エースとして生き残ったのは二人位で、あとは死屍累々(ししるいるい)だった。
大手町の毎朝新聞社は"三大紙"と云われる全国紙の一翼を占め、移転してまだ五年目の十五階建ての建物は、ガラス面の多い瀟洒(しょうしゃ)な設計である。
弓成は相好を崩し(そうごうをくずし)、スタンドの豆電球にほんのりうかび上がっている子供たちの顔に見入った。
如才なく(じょさいなく)云い、手をさしのべ、握手すると、事務官らがドアを開にしているエレベーターに乗り込んだ。