帰国を一カ月後に控えたこの僥倖(ぎょうこう)を、我楽は今まで考えたことも無い神に謝した。
山崎豊子『運命の人』
長い間、アメーバ赤痢に 苛まれ(さいなまれ)餓え、先生の巨軀と強靭な体力であればこそ、今まで持ちこたえて来られたのだろうが、もう自ら手足を動かせる余力さえ残っていないのかもしれない。
山崎豊子『運命の人』
東京の妻への手紙を書くためだったが、なかなか文言が出て来ない、長年にわたって音信を断ち、由里子が現在、どうしているか解らない自分の無責任さに忸怩(じくじ)とするばかりだった。
山崎豊子『運命の人』