2023年8月31日木曜日

目に余る

調査すれば解ることですが、国民航空の社員食堂が、他社と比べて高く、まずいこと、催物、通信販売には、生協幹部への上納金なくしては参加させて貰えないこと、また、その多寡によって、売場の配置やカタログでの扱いが違って来ることなど、目に余る(めにあまる)ものがあります。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月30日水曜日

恩顧を蒙る

衆参同時選挙がこの夏に行われそうなこと、株価がこの三日間でかなり上昇していることなどを読んでから、社会面、特に死亡欄には仔細に目を通した。恩顧を蒙っ(おんこをこうむっ)た人への弔意を、国見は重んじる性格だった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月29日火曜日

爪に火を点す

爪に火を点す(つめにひをともす)ように苦労して新しい機械を入れ、アメリカより後発だった合繊は特に、よりよい設備投資と絶えざる技術革新という、血と汗の結晶だったのである。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月28日月曜日

唯々諾々

本社の役員から指示を受けているため、現場はどんな無理難題にも唯々諾々(いいだくだく)と従っている有様です。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月27日日曜日

讒訴

岩合は、自分に好意的でない国見を、暗に讒訴(ざんそ)した。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月25日金曜日

揣摩臆測

そこで率直にお聞きしますが、『会長室』について、揣摩臆測(しまおくそく)がとび、国民航空のシャドウ・キャビネットなどという声も耳に入って参りますが、会長室とはどのような部署なのですか、お伺いします。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月24日木曜日

傲岸不遜

相模湾で、豪華なクルーザーを乗り廻している傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度とは、別人のような腰の低さで、ロビーへ案内した。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月23日水曜日

私怨

皆さんの中には、これまでの経緯で、相容れぬ相手もあるでしょうが、航空史上最大の惨事を引き起こしたことを肝に銘じ、過去にこだわらず、云うならば私怨(しえん)を超え、心を一にして、絶対安全という共通の目標を持って、現在の難局を乗り切って貰いたい、何か問題があれば直接、私にぶつけて、一緒に問題を解決して行きたい。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月19日土曜日

刎頚の友

小野寺会長は戦後の混乱期に、米進駐軍払下げの自動車販売から身を興し、田沼元総理の刎頚の友(ふんけいのとも)として、観光、不動産業を表看板に莫大な資産を形成していた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月18日金曜日

星霜

内堀通りを上がった正面に聳えたつ国会議事堂は、昭和十一年の竣工以来、幾星霜(せいそう)を経て、外装の花崗岩は黒ずんでいたが、国権の最高機関にふさわしい威厳が備わっている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月17日木曜日

瞬く

厳しい調子できめつけると、秋月は、社会的責任という言葉に、はじめて眼を瞬い(しばたたい)たが、なお抵抗するように答えなかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月16日水曜日

三白眼

岩合は、八の字眉の下の三白眼(さんぱくがん)を、轟にちらっと向け、「確かに国見は手がやけそうな人物だ、だが、もし、われわれに一言の挨拶もなく、新生労組に手を出せばどうなるか、早目に知らしめておくべきだ」と云い、「どうだ、秋月、酔いざましにちょっと、甲板へ出るか」秋月に、目配せした。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月15日火曜日

堅気

ダイヤ入りのロレックスの腕時計といい、メキシコ・オパールをはめ込んだ指輪といい、およそ堅気(かたぎ)のサラリーマンとは程遠い身形をしている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月14日月曜日

ミイラ取りがミイラになる

一方、権田の方も、国見会長と何度か話し合い、その内容は逐一、報告させていますが、えらい惚れ込みようで、組合統合以外、道はありませんと、ミイラ取りがミイラになっ(みいらとりがみいらにな)たようなことを云いはじめる始末です、頭を冷せと怒鳴りつけてやったところですよ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月13日日曜日

嘯く

「厄介な奴が、国民航空へ乗り込んで来たものですね、恐いもの知らずほど、手がやけるものはない」だらしのない巨体とその風貌に似合わず、ピンクのシャンパンが大好物の轟が、冷えたシャンパンを飲みながら、嘯い(うそぶい)た。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月12日土曜日

高見

「先生、いろいろとご高見(こうけん)を伺わせて戴き恐縮でございました」と云い、海野社長も、いつもの頭の高さと打って変わって、「今後ともよろしくご指導のほどを——」鄭重に頭を下げ、座敷の敷居際まで見送った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月11日金曜日

真摯

国見の事故に対する真摯(しんし)な態度と、遺族に対する深い謝罪の念が感じ取れた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月10日木曜日

一朝一夕

お気持ちは解りますが、一朝一夕(いっちょういっせき)にできることではありません、何しろ過去、二十年もの尋常ならざる対立があったのですから。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月9日水曜日

惻隠

そう思うと、国見は、平静を装っている恩地に、惻隠(そくいん)の情を覚えた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月8日火曜日

一言居士

一言居士(いちげんこじ)の君に、そう素直に評価されるとは嬉しいね。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月7日月曜日

追従

「それに、運輸次官当時、参議院予算委員会で、兄上から質問を受け、答弁に立ったこともありました」お追従(ついしょう)のような言葉に、不二委員長は訝しげに海野を見やった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月6日日曜日

虚心坦懐

皆さん、今日から全社員が心を一つにして、虚心坦懐(きょしんたんかい)に私どもにぶつかって来て戴きたい。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月5日土曜日

身命を賭する

もとより、再建の道は多岐多難でありますが、御巣鷹山で亡くなられた犠牲者の方々の御霊を心からお弔いし、ご遺族の方々にお詫びするために、身命を賭し(しんめいをとし)て、安全運航を成し遂げねばなりません。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月4日金曜日

水を打ったよう

国見の一言半句も聞き洩らすまいと、場内は水を打ったよう(みずをうったよう)に静まり返っている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月3日木曜日

深慮遠謀

それは、絵画を鑑賞する眼ではなく、深慮遠謀(しんりょえんぼう)をめぐらす眼であった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月2日水曜日

三顧の礼

戦時中の社長であった方も『軍民殉国』のスローガンを掲げ、戦局が厳しくなると、他社に先んじて、軍需工場への転用に応じられましたね、国見さん、その伝統を継ぎ、あなたもまことにご苦労ではありますが、ここは一つ、お国のために、重責を引き受けて戴きたい、総理は、三顧の礼(さんこのれい)を以て迎えると、申しておられます。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月1日火曜日

昔日

曾(かつ)て、世界一を誇った綿加工工場も、今は本社の建物と、グラウンドを残すのみで、昔日(せきじつ)の俤(おもかげ)はない。

山崎豊子『沈まぬ太陽