「オレにはひとつ、腹案(ふくあん)がある」その佃のひと言に吸い寄せられるように、江原の視線が動いた。
池井戸潤『下町ロケット ガウディ計画』
桜田は虚ろな表情になり、こたえなかった。いや、こたえられなかった。努の言葉は、枝を離れた病葉(わくらば)のように桜田の胸の奥底へと舞い落ちていく。
近づいて声をかけると、ルーペ越しに試作品を観察していた立花が、血走った目を向けてきた。髪をひっつめ(引詰)にして作業している加納にも、疲労が滲んでいる。
滝川もまた、付き合いが古いだけに貴船の置かれた状況を知悉(ちしつ)していた。
中里はせせら笑った。「結構なことだ。だけどな、お前はかすみ食っ(霞くっ)て生きていけるのか」
「我々があの人の軍門に降ら(ぐんもんにくだら)ない以上は」一村の言葉をたしかめ、佃は通話を終えた。
私がわざわざこんないい話を持ってきたのに、君はそれを袖にする(そでにする)というのかね。