私は人差し指を唇にあてた。免色はすぐに黙った。そして我々は夜の静寂(しじま)の中に耳を澄ませた。
村上春樹『騎士団長殺し』
東京に戻ってきて、長いあいだ独身生活を送っていたが、絵を描くだけで十分生活できるようになってから、突然思いついたように郷里の遠縁の女性と結婚した。まるで人生の帳尻を合わせる(ちょうじりをあわせる)みたいにさ。
村上春樹『騎士団長殺し』
彼はトビケラを飼って繁殖させることができればと考えているのだが、それを試みようにも、彼らを交尾させることができないと語った。これに対して、最前列にいた昆虫学の教授が、まるでいちばん自明な事柄を見過ごしているといわんばかりに、大声で。がなりたてたのだ。
リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』
しかしその徳は、かれの生来のものであり、メッキではなかった。まやかしものではなかったのである。率先垂範(そっせんすいはん)、先憂後楽のかれの日常行動は、多くの人々の心をうった。かれが、贋物ではなく、本物の誠実な人間であったからである。
童門冬二『全一冊 小説 上杉鷹山』