2023年12月31日日曜日

文雅

それだけの言葉の中にも、にじみ出た文雅(ぶんが)への素養というものが感じとられる。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月30日土曜日

身代

とまれ、庄九郎はつぎつぎと新商法をあみだしては油を売り、奈良屋の身代(しんだい)はみるみるふとった。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月29日金曜日

酔狂

つらい仕事だ。だてや酔狂(すいきょう)でできるものではないのである。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月28日木曜日

振り売り

なんと庄九郎は、奈良屋の主人のくせに、店の売り子にまじり、そういう振り売り(ふりうり)の行商までやった。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月27日水曜日

桑門

庄九郎は桑門(そうもん)の育ちである。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月26日火曜日

下にも置かない

はずむ思いで玄関で案内を乞い、出てきた僧にいきなり多額のぜにを与えた。「ご喜捨、ご奇特に存ずる」と、僧は、下へもおかぬ(したへもおかぬ)態度をとった。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月25日月曜日

懸想

お万阿様は、懸想(けそう)なされたのではあるまいか。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月24日日曜日

御料人

奈良屋の御料人(ごりょうにん)様でございます。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月23日土曜日

天稟

しかしおれには、天稟(てんぴん)の武略がある。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月21日木曜日

鼻つまみ

漢の高祖をみろ。氏も素姓も学問もない百姓の子で、若い頃は郷里の沛の町でも鼻つまみ(はなつまみ)の無頼漢だった。

司馬遼太郎『国盗り物語

2023年12月20日水曜日

分限者

資金拵えが難しかですなあ。さて、今の大浦屋がどこまで借りられるものやら。それとも、その杉山しゃんが分限者(ぶげんしゃ)であられるとですか。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月19日火曜日

気宇

しかしその存念を明かしたことはなく、坂本龍馬のように大きな気宇(きう)でもって若者らを率いる気配もなかった。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月18日月曜日

料簡

 助力を引き受けた限りは快く振る舞うべきだと、料簡(りょうけん)していた。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月16日土曜日

零す

きょうだいは妙なところが似るもんたいと、お慶は苦笑を零し(こぼし)た。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月15日金曜日

一方ならず

外国商人が大浦屋を信用すること一方ならず(ひとかたならず)、新政府をしのぐのではあるまいか。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月13日水曜日

襁褓

父はもはや手水に立てぬので襁褓(むつき)をあてているが、その世話はお慶と亥之二で引き受けている。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月11日月曜日

向後

すなわち、すんでのところで戦端が開かれるところであったのだ。向後(きょうこう)もわからんね。薩摩は一藩でも討幕にかかる気たい。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月10日日曜日

流言飛語

長州征伐に臨んでいた幕府軍が総崩れになった。薩摩が出兵しなかったとはいえ、幕府軍の優勢が伝えられていたのだ。友助がジョンに確かめたところ、流言飛語(りゅうげんひご)ではないらしいい。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月9日土曜日

破鏡

しかも祝言から七日も経たぬうちに破鏡(はきょう)した。今となっては、どんな亭主であったか顔も思い出せない。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月8日金曜日

銀子

そしたら宗次郎しゃんも、ガラバアしゃんに銀子(ぎんす)を用立ててもろうたとでしょうか。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月7日木曜日

風月同天

わしはいつも、風月同天(ふうげつてんをおなじゆうす)を思うちょります。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月6日水曜日

洟も引っ掛けない

それを喰い止めるべくいろいろと思案を出したというのに、あんたらは洟もひっかけん(はなもひっかけん)かったやなかか。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月5日火曜日

雁首を揃える

その後は口の中で言葉を転がすだけで、さっぱり要領を得ない。が、すぐに思い当たった。雁首揃え(がんくびそろえ)て、その費えを頼みにきたのだ。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月4日月曜日

あてこする

 仲間の落魄を種にしてあてこする(あてこする)とは、姑息じゃなかか。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月3日日曜日

鼻白む

それにしても頭の中が蕪雑ににできている連中だと、お希以は鼻白ん(はなじろん)だ。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月2日土曜日

お為ごかし

「よほど運の強かとやろう。去年も物騒なことにならんで、まあ、何よりやった」お為ごかし(おためごかし)な言い方をしつつ、周囲に妙な目配せをする。

朝井まかて『グッドバイ

2023年12月1日金曜日

阿漕

油商にとって「日向の油」とは、阿漕(あこぎ)な商いを指している。油には妙な性質があり、熱を帯びると嵩を増すのだ。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月30日木曜日

雪隠

寄合で使う座敷とは逆の方向に向かっており、雪隠(せっちん)の前を通り過ぎ、さらに庭へ下り立つ。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月28日火曜日

剣呑

「女将しゃん」剣呑(けんのん)な声がした。弥右衛門が水を掻くような手つきで駈け寄ってくる。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月27日月曜日

胡乱

地役人に知り合いの一人も作れぬものかと江戸町に足を運んでいるのだが、詰所の中を覗くだけでも胡乱(うろん)な目つきをされる。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月26日日曜日

目端がきく

最初はえろう堅物な男やったばってん、近頃はなかなか目端もきく(めはしもきく)とよ。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月25日土曜日

そぞろ歩き

おなごが暢気に、そぞろ歩き(そぞろあるき)ばする通りじゃなかぞ。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月24日金曜日

才覚

昔は自在に交易できたばい。才覚(さいかく)さえあれば、異人とでも好いたように渡り合えた。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月23日木曜日

屋台骨

大浦屋は船持ちの油商やった。油商いのかたわら唐人や葡萄牙人相手の交易もして、商いの屋台骨(やたいぼね)を太うした。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月22日水曜日

首肯

「その昔は、大浦屋も船ば持って交易しとったとよ」 お希以が大声で「船」と尻上がりに訊き返すと、祖父は「ん」と首肯(しゅこう)した。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月21日火曜日

悠々緩々

竹谷家は「河仁」の屋号で通る老舗で大浦屋と同じ油商であったが、財の充実した先代が暖簾を仕舞い、市中の方々に持つ土地や長屋を貸して悠々緩々(ゆうゆうかんかん)の暮らしを続けている。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月20日月曜日

肝煎り

それよりも問題なのは、大浦屋の当主の不在であった。姉や親戚が案じて談合を重ねるうち、町内の顔役の肝煎り(きもいり)で縁談がもたらされた。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月18日土曜日

料簡

お希以は己で何とかしよる、この家も位牌も何とかしてくれる。そんな料簡(りょうけん)だったとしか思えないのだ。でなければ、あんなふうに鼠のごとく去れるわけがない。お希以も我が娘であるのに一顧だにせず、脇目も振らず。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月17日金曜日

波止

嘉永六年六月末の今日、待ちに待った阿蘭陀の商船が訪れる。毎年、その入津を出島近くの大波止(はと)で見物がてら出迎える町人は多い。

朝井まかて『グッドバイ

2023年11月15日水曜日

無頼漢

伊藤が、いま、あつまっているのは、八割が無頼漢(ぶらいかん)どもだ、と放言したといううわさがつたわったが、それは強がりとしか思われなかった。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月14日火曜日

籠絡

この人心動揺のさい、詔勅をだしても、挽回はおぼつかない。いいかえれば、人心の多数を政府に籠絡(ろうらく)することおぼつかない。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月13日月曜日

天衣無縫

よく、外国から帰ってきた人たちは、外国じこみのスマートな身なり、身のこなしを身につけていたのに、TN君には、そうしたところがない。彼は、そうしたこととは無縁で、知っている人たちから自然児とあだなされたほど天衣無縫(てんいむほう)だった。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月12日日曜日

燎原の火

TN君は、板垣に、そう答えて笑い、いまのところ出版するつもりがないといった。そのかわり、学生のノートが、つぎつぎと書き写され、日本中にひろまっていくのを、じっと見つめていた。それは、まったく燎原の火(りょうげんのひ)という表現にふさわしい、いきおいだった。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月11日土曜日

公僕

王様は主権者でなく、人民が主権者なので、たとえ王様を人民がみとめたとしても、自分のあるじとしてではなく、公僕(こうぼく)としてみとめるだけなのである。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月10日金曜日

場末

だが、それらがいま、どんなふうに庶民のこころのなかで生きているかは、場末(ばすえ)の居酒屋の口論のなかで知ったのだった。

なだいなだ『TN君の伝記

2023年11月9日木曜日

嬲り者

恩地は再びそこに身をおき、魑魅魍魎の輩に嬲り者(なぶりもの)にされ深傷を負った心を癒し、大自然の営みの中に跪いて、教えを乞いたかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月8日水曜日

面従腹背

だが、長年巣喰う魑魅魍魎は、人事の公正、組合統合、財務面の乱脈をも正そうとした国見に対し、面従腹背(めんじゅうふくはい)で、会長追い出しを謀った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月7日火曜日

澎湃

突然の国見会長の辞任は、現場に大きな衝撃を齎し、直接、会長の口から話を聞きたい、という声が、澎湃(ほうはい)として起った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月5日日曜日

立錐の余地もない

その日の夕方、羽田のオペレーションセンターの講堂は、制服姿の機長をはじめとする乗員、スチュワーデス、作業衣の整備士やスーツ姿の一般地上職が集まって、立錐の余地もない(りっすいのよちもない)ほどであった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月4日土曜日

宿痾

そもそも国見会長には、国民航空の宿痾(しゅくあ)である労務問題を打開して貰うため出馬願ったのに、社内最大の組合と真っ向から対立し、批判の声明を出されて以来、ごたごた続きで、以前より組合間の対立が深刻化したと評する向きもある。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年11月3日金曜日

麗々しい

「副総理の益々のご健康を念じて、北京から自社便で取り寄せたものでございます」と云い、麗々しい(れいれいしい)包装の箱を差し出したが、その中には竹丸が取りまとめる閣僚の謝礼分と共に、野党対策費も入っていたのだった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月31日火曜日

謦咳に接する

おかげさまで副総理の謦咳に接し(けいがいにせっし)ました、これは漢方薬の宝、『霊芝』です。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月30日月曜日

侃々諤々

赤坂のホテルにある永田派の事務所は、衆参両院の各委員会に出席した議員たちが、政策論争や対立派閥の動きについて、侃々諤々(かんかんがくがく)やっていた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月29日日曜日

蒼惶

行天は、どちらにともなく頭を下げると、席をたち、何も書かれていない白紙の伝票にサインして、蒼惶(そうこう)と店を出た。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月28日土曜日

司直

国民航空はもはやどうしようもない、手術のために手術室へ入ったら、医者は自分一人で誰もいなかったというのが偽りのない心境です、かくなる上は、司直(しちょく)の手に委ねるより他に——。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月27日金曜日

鞘を抜く

旬日をおかずして、池坊は国民航空のドルの十年先物予約と、インドネシアの円借款を相対し、サヤを抜く(さやをぬく)案を出して来たのだった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月25日水曜日

懐刀

私が頭取時代から展開してきた東南アジア、中近東、中南米のプロジェクトには、いつもあれを私の懐刀(ふところがたな)として使い、百戦錬磨の働きで応えてくれています、産銀ファイナンスの社長に就任させたのも、より一層、動きやすくさせるためなのです。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月24日火曜日

知己

もちろん決める前には、古巣の後輩に見通しを聞きましたよ、またわが社の幹事銀行である日本産業銀行にも、腹を割って話し合える知己(ちき)がおり、意見を求めました、しかし大蔵省、産銀とも、円高に振れる懸念はないと云い切りましたので、十年物で行く方針稟議を決定したのです。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月22日日曜日

腐っても鯛

国際金融局次長にまでなりながら、僅か一年で印刷局長に転出させられ、ややランク落ちの感が否めない国民航空へ天下ったのは、剃刀のような局長と、きら星の如く居並ぶ課長たちに挟まれて、かすんだ存在であったためと、国見は聞いていた。だが、"元大蔵官僚"は腐っても鯛(くさってもたい)であった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月21日土曜日

粉飾

昭和五十二年、オイルショック後の繊維業界大不況の中で、関西紡績はアクリル繊維部門で何十億もの損失を出しながら、全体で三百四十億もの黒字決算を行った。主な粉飾(ふんしょく)は工場跡地の売却、在庫品の水増しなどである。このような粉飾に慣れた手腕で、国民航空の業績も操作されるのではないか。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月20日金曜日

灰燼

あれだけの惨事を起こしながら、今なお反省もなく、一部の者が社内利権を貪っているのは、企業倫理が欠如しているからだ、ここで私の腰が退けては、今日まで努力して来たことが灰燼(かいじん)に帰してしまう、おそらく今後も、旧体制の特定派閥と馴れ合ったマスコミが、さらに中傷、誹謗の記事を書きたてるだろうが、いちいち抗議したりする時間は、今の私にはない。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月19日木曜日

嚆矢

この額に関し、会長室の恩地部長は、「思いもよらぬ大きな書を表装すると、一畳にもなり、掛けるところはここしかないのです」と説明するが、かくいう氏こそ国見人事の嚆矢(こうし)ともいうべき人物である。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月18日水曜日

玉石混淆

事実、会長室のメンバーは玉石混淆(ぎょくせきこんこう)甚だしく、国見会長への求心力は一気に低下した。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月16日月曜日

冷飯喰い

ところが発令された会長室メンバーの多くは、これまで経営の中枢から遠ざけられていた"冷飯喰い(ひやめしぐい)"が大半で、何を基準にしてこんなメンバーが選ばれたのかと、社内はすっかりシラけましたよ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月15日日曜日

笠に着る

国見会長は総理から贈られた『王道』の額を背に、その威光を笠にき(かさにき)ていると伝えられています、この際、是非とも拝見し、客観的に取材したいと思います。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月14日土曜日

悲憤慷慨

「昨日、お電話したように、会長室の取材に是非、協力して下さい、御巣鷹山事故の大惨事から一年以上、経過しているのに、国民航空は安全運行にどう取り組んでいるのか、遺族はおろか、一般国民にも見えてきません、それどころか、再建に取り組んでいる国見会長への非難ばかりが、一部マスコミから執拗に流されています」と、悲憤慷慨(ひふんこうがい)するように云った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月13日金曜日

狡猾

四月というからには、会社の他の人事に絡ませ、巧く組合を説得するつもりなのだろう。官僚出身者らしい狡猾(こうかつ)なやり方であったが、海野がそこまで云うなら、やらせることだと考えた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月12日木曜日

詰る

「海野さん、あの声明文は、われわれ新経営陣を批判し、極言すれば挑戦して来たものですよ、それを是認するような言い方はおかしいじゃありませんか、それでは真剣な交渉などできるはずがない」厳しく詰る(なじる)と、三成は、「会長のお腹だちのほどは重々、承知しておりますが、今の新生労組と傘下の客乗支部は、一発触発の状態です。」

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月11日水曜日

いけすかない

今日、はじめて顔を合わせた行天常務も、いけすかな(いけすな)かった。ばりっとした身形で、評判通りの切れ者という印象だったが、身元を隠すように、自身のことを否定しかけるあたり、腹がない男だった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月10日火曜日

柳眉

「あら、秘書課長の川野さんも、私が社長では若過ぎると云われましたけど、お店へ飲みに来る会計士の方に聞いたら、年齢なんか関係ないと云ってらしたわ、二十歳でもスナックを法人にして、社長になっている人もいるんですってよ」柳眉(りゅうび)をさかだてて、迫った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月9日月曜日

跳梁

組合OBが、会社を喰いものにし、声明文にまで口を出すなどひど過ぎる、曾て組合分裂の時、陰で動いていた人物が、今は黒幕の大物として跳梁(ちょうりょう)しているようでは、国民航空は救いようがない、富士君の年代では知らないだろうが、会社は組合分断にあらゆる術を使い、弱小組合になった国航労組に対し、常識では考えられぬ酷い仕打ちをしたのだ、そのことが大きな亀裂になって、今なお長く尾を曳いているんです。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月8日日曜日

巣窟

生協は執行部とOBの利権の巣窟(そうくつ)であり、その利権を使って、新生労組の役員たちは、本社の管理職になり、エリートコースに乗る、ですから、恩地さんのされたことは、その既得権を取り上げるに等しかったわけです。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月7日土曜日

唾棄

根っからの軍人嫌いの宮内は、唾棄(だき)するように云うと、火かき棒で、焦げた薪をつついた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月6日金曜日

口さがない

額は下ろされた方がよろしいですよ、口さがない(くちさがない)連中によれば、国見会長は、総理の揮毫された『王道』の額を背負って、自分の為すことすべて総理のお墨付きとばかりに、威光を笠にきている、ということじゃないですか。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月5日木曜日

稟議

これまで岩合の君臨する国航開発では、前社長の堂本時代から、本社の稟議(りんぎ)は形式だけで、いわんや財務調査など一度たりとも受けたことがない。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月4日水曜日

煙幕

「ご苦労さま——、会長特命の調査とかで、私に直接、話って何だね、私は何事につけ方針だけ決め、あとのことはすべて財務部長任せにしているのだがね」早々に煙幕(えんまく)を張った。和光は、机を挟んで冷静に切り出した。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月3日火曜日

せせら笑う

岩合はせせら笑う(せせらわらう)が、本社の関連事業担当専務当時、ノーチェックで、全て岩合と二人三脚で事業を進めて来た秋月にとっては、懸念すべきことであった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年10月1日日曜日

お里が知れる

昔の友人を策士呼ばわりするなんて、四郎のお里が知れる(おさとがしれる)わよ、お言葉にご注意あそばせ、常務殿。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月30日土曜日

生馬の目を抜く

生馬の目を抜く(いきうまのめをぬく)アメリカのテレビ局で、まともな仕事を与えられるはずもなく、どうせ便利屋扱いされているだけに違いなかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月29日金曜日

義憤

会長批判の中、和光監査役は義憤(ぎふん)に耐えないと、真実を私に教えにきてくれた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月28日木曜日

しじま

森閑とした夜のしじま(しじま)の中で、恩地は、今朝方、会長室で、自制している国見の姿を瞼に浮かべた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月26日火曜日

意気軒昂

唾を飛ばし、意気軒昂(いきけんこう)だった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月24日日曜日

人後に落ちない

"肥後もっこす"の豪放な面はあるが、官僚らしい用心深さにおいては人後におちない(じんごにおちない)石黒が、そこまであの女に入れ込んでいるとは、いよいよ意外であった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月23日土曜日

色めき立つ

後発の新日本空輸にとって、国際線進出は三十年来の悲願ですから、必死になるのは当然ですが、国民航空は既に、世界各国へ路線を持っているのだから、そんなに色めきたつ(いろめきたつ)ことはないじゃありませんか。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月22日金曜日

夜討ち朝がけ

何しろ、新日本空輸は国民航空に追いつき、追い越せが露骨で、来期は、ヨーロッパ進出に執念を燃やし、夜討ち朝がけ(ようちあさがけ)の攻勢をかけていると聞いております、それだけに当社としては、何としても石黒課長のお力にお縋りしたいのでございます。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月21日木曜日

遊蕩三昧

不正な金で遊蕩三昧(ゆうとうざんまい)の社員もいれば、安全の原点は御巣鷹山だと、会社のポストをなげうって遺骨を拾い、墓標の手入れに明け暮れる社員もいる。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月20日水曜日

無間地獄

子供の遺していった物が眼につき、声を上げて泣いたこともある。五人で囲んでいた食卓に、独り坐ることは、まさに無間地獄(むけんじごく)であった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月19日火曜日

由々しい

いつも云っているように、航空会社で最も大切なものは飛行機です、この実に単純明快なことが、国民航空では理解されていない、特に整備士に至っては、二十四時間三交替制で油にまみれながら働いているにもかかわらず、軽んじられる風潮があるのは、由々しき(ゆゆしき)ことです、これからの国民航空は整備が中心となり、パイロットやスチュワーデスがいて、彼らを囲むように営業や管理部門があるべきです、その意味で、『機付き整備士制度』の導入は早期に実現させねばならないと考えます。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月18日月曜日

金輪際

私は古いしきたりで育った男ですから、世間の価値観が物差しになってます、そやから国民航空が五百二十名もの犠牲者を出して以来、金輪際(こんりんざい)、あの会社の飛行機には乗らんと、通してきましたけど、恩地さんが再建に参画されると聞いて、今日は国民航空で羽田までちゃんと、飛んできましたのや。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月17日日曜日

おしもおされぬ

そら、恩地さんは東都大学法学部出ですよって、それを当然と思うてはるでしょうが、総理は別にして、関西紡績の国見会長云うたら、財界のおしもおされぬ(押しも押されぬ)大御所です、そのお方のいわば補佐官ちゅうのは、私らにとったら、えらいことです。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月16日土曜日

不撓不屈

「もうご一緒出来ないかと思うと、残念です、二十一年にわたって貫かれた藤井さんの不撓不屈(ふとうふくつ)の精神を、私たちも受け継いで参ります。」女性パーサーが、かすかに眼を潤ませながらも、しっかりした口調で云った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月15日金曜日

囂しい

庭では、午後の暑い照り返しの中、蝉しぐれが囂しい(かまびすしい)。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月14日木曜日

弄する

三成は、自由党の航空対策特別委員会の青山代議士のもとへ裏献金を届け、権謀術数を弄し(ろうし)て帰って来たばかりであったから、ぎくりとしながらも営業畑で鍛え上げたしたたかさで...

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月13日水曜日

高邁

さすがに一国の総理らしい高邁(こうまい)なお言葉ですね。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月12日火曜日

権謀術数

王道とは、中国の夏、殷、周三代の賢王が行った公明正大、無私無偏の道を云い、国を治めるのに権力、陰謀などの覇道によらず、徳を以てせよということです、出典は中国最古の文献『書経』といわれています、総理は、会社の経営、つまり、国民航空の再建も、権謀術数(けんぼうじゅっすう)に依らず、公明正大に王道を以て成し遂げられたしという意を籠めておられるのでしょう。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月11日月曜日

煙草銭

「ところで三百万円、手元にあるかい、今日、要るんだが、あいにく持合せがなくてね」まるで、煙草銭(たばこせん)のたて替えのごとくに聞いた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月10日日曜日

燦然

三成の部屋には、本といえば、各企業の分厚い社史、絵画といえば、額の方が高価そうなありきたりの富士山の絵しかなく、目を惹くのは、サイドボードにずらりと並んだゴルフコンペの優勝カップであった。毎日、女性秘書に磨かせているという噂通り、燦然(さんぜん)と輝いている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月9日土曜日

右顧左眄

マスコミが何を書こうが、右顧左眄(うこさべん)しないことですよ、私など、年中、叩かれているが、己れの信じるところに向って邁進しています。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月8日金曜日

顎足付き

辣腕記者であったから、当初は東京近郊でのゴルフコンペや、新橋の料亭『千姫』での飲食接待だったが、次第にエスカレートし、札幌でのゴルフに招待した時は、顎足付き(あごあしつき)だったのに、ゴルフ道具さえ持って来なかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月7日木曜日

昵懇

笹本は、運輸省の記者クラブのキャップをつとめたこともある四十過ぎのベテラン記者で、国民航空の広報部とは、とりわけ昵懇(じっこん)の間柄であった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月6日水曜日

位人臣を極める

何をおっしゃいます、石黒課長は、官僚として、位人臣を極めら(くらいじんしんをきわめら)れる方だと存じております。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年9月2日土曜日

よしなに

いいえ、あなたがゴルフで遠出していて、連絡が取れないと云うと、奥様からよしなに(よしなに)お取り次ぎ下さいとだけ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月31日木曜日

目に余る

調査すれば解ることですが、国民航空の社員食堂が、他社と比べて高く、まずいこと、催物、通信販売には、生協幹部への上納金なくしては参加させて貰えないこと、また、その多寡によって、売場の配置やカタログでの扱いが違って来ることなど、目に余る(めにあまる)ものがあります。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月30日水曜日

恩顧を蒙る

衆参同時選挙がこの夏に行われそうなこと、株価がこの三日間でかなり上昇していることなどを読んでから、社会面、特に死亡欄には仔細に目を通した。恩顧を蒙っ(おんこをこうむっ)た人への弔意を、国見は重んじる性格だった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月29日火曜日

爪に火を点す

爪に火を点す(つめにひをともす)ように苦労して新しい機械を入れ、アメリカより後発だった合繊は特に、よりよい設備投資と絶えざる技術革新という、血と汗の結晶だったのである。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月28日月曜日

唯々諾々

本社の役員から指示を受けているため、現場はどんな無理難題にも唯々諾々(いいだくだく)と従っている有様です。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月27日日曜日

讒訴

岩合は、自分に好意的でない国見を、暗に讒訴(ざんそ)した。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月25日金曜日

揣摩臆測

そこで率直にお聞きしますが、『会長室』について、揣摩臆測(しまおくそく)がとび、国民航空のシャドウ・キャビネットなどという声も耳に入って参りますが、会長室とはどのような部署なのですか、お伺いします。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月24日木曜日

傲岸不遜

相模湾で、豪華なクルーザーを乗り廻している傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度とは、別人のような腰の低さで、ロビーへ案内した。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月23日水曜日

私怨

皆さんの中には、これまでの経緯で、相容れぬ相手もあるでしょうが、航空史上最大の惨事を引き起こしたことを肝に銘じ、過去にこだわらず、云うならば私怨(しえん)を超え、心を一にして、絶対安全という共通の目標を持って、現在の難局を乗り切って貰いたい、何か問題があれば直接、私にぶつけて、一緒に問題を解決して行きたい。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月19日土曜日

刎頚の友

小野寺会長は戦後の混乱期に、米進駐軍払下げの自動車販売から身を興し、田沼元総理の刎頚の友(ふんけいのとも)として、観光、不動産業を表看板に莫大な資産を形成していた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月18日金曜日

星霜

内堀通りを上がった正面に聳えたつ国会議事堂は、昭和十一年の竣工以来、幾星霜(せいそう)を経て、外装の花崗岩は黒ずんでいたが、国権の最高機関にふさわしい威厳が備わっている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月17日木曜日

瞬く

厳しい調子できめつけると、秋月は、社会的責任という言葉に、はじめて眼を瞬い(しばたたい)たが、なお抵抗するように答えなかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月16日水曜日

三白眼

岩合は、八の字眉の下の三白眼(さんぱくがん)を、轟にちらっと向け、「確かに国見は手がやけそうな人物だ、だが、もし、われわれに一言の挨拶もなく、新生労組に手を出せばどうなるか、早目に知らしめておくべきだ」と云い、「どうだ、秋月、酔いざましにちょっと、甲板へ出るか」秋月に、目配せした。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月15日火曜日

堅気

ダイヤ入りのロレックスの腕時計といい、メキシコ・オパールをはめ込んだ指輪といい、およそ堅気(かたぎ)のサラリーマンとは程遠い身形をしている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月14日月曜日

ミイラ取りがミイラになる

一方、権田の方も、国見会長と何度か話し合い、その内容は逐一、報告させていますが、えらい惚れ込みようで、組合統合以外、道はありませんと、ミイラ取りがミイラになっ(みいらとりがみいらにな)たようなことを云いはじめる始末です、頭を冷せと怒鳴りつけてやったところですよ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月13日日曜日

嘯く

「厄介な奴が、国民航空へ乗り込んで来たものですね、恐いもの知らずほど、手がやけるものはない」だらしのない巨体とその風貌に似合わず、ピンクのシャンパンが大好物の轟が、冷えたシャンパンを飲みながら、嘯い(うそぶい)た。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月12日土曜日

高見

「先生、いろいろとご高見(こうけん)を伺わせて戴き恐縮でございました」と云い、海野社長も、いつもの頭の高さと打って変わって、「今後ともよろしくご指導のほどを——」鄭重に頭を下げ、座敷の敷居際まで見送った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月11日金曜日

真摯

国見の事故に対する真摯(しんし)な態度と、遺族に対する深い謝罪の念が感じ取れた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月10日木曜日

一朝一夕

お気持ちは解りますが、一朝一夕(いっちょういっせき)にできることではありません、何しろ過去、二十年もの尋常ならざる対立があったのですから。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月9日水曜日

惻隠

そう思うと、国見は、平静を装っている恩地に、惻隠(そくいん)の情を覚えた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月8日火曜日

一言居士

一言居士(いちげんこじ)の君に、そう素直に評価されるとは嬉しいね。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月7日月曜日

追従

「それに、運輸次官当時、参議院予算委員会で、兄上から質問を受け、答弁に立ったこともありました」お追従(ついしょう)のような言葉に、不二委員長は訝しげに海野を見やった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月6日日曜日

虚心坦懐

皆さん、今日から全社員が心を一つにして、虚心坦懐(きょしんたんかい)に私どもにぶつかって来て戴きたい。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月5日土曜日

身命を賭する

もとより、再建の道は多岐多難でありますが、御巣鷹山で亡くなられた犠牲者の方々の御霊を心からお弔いし、ご遺族の方々にお詫びするために、身命を賭し(しんめいをとし)て、安全運航を成し遂げねばなりません。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月4日金曜日

水を打ったよう

国見の一言半句も聞き洩らすまいと、場内は水を打ったよう(みずをうったよう)に静まり返っている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月3日木曜日

深慮遠謀

それは、絵画を鑑賞する眼ではなく、深慮遠謀(しんりょえんぼう)をめぐらす眼であった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月2日水曜日

三顧の礼

戦時中の社長であった方も『軍民殉国』のスローガンを掲げ、戦局が厳しくなると、他社に先んじて、軍需工場への転用に応じられましたね、国見さん、その伝統を継ぎ、あなたもまことにご苦労ではありますが、ここは一つ、お国のために、重責を引き受けて戴きたい、総理は、三顧の礼(さんこのれい)を以て迎えると、申しておられます。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年8月1日火曜日

昔日

曾(かつ)て、世界一を誇った綿加工工場も、今は本社の建物と、グラウンドを残すのみで、昔日(せきじつ)の俤(おもかげ)はない。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月31日月曜日

百鬼夜行

そのためには、百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)の族議員にも、運輸大臣にも悟られず、極秘裡に総理の"影の参謀"と云われる男を介して、一挙にことを決めてしまうことであった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月30日日曜日

怨嗟

政局が混沌とする中で、巧みにキャスティングボードを握り、田沼派と妥協することによって、多くの政治家の怨嗟(えんさ)と羨望を浴びながら、総理の座に就くことが出来たのだった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月29日土曜日

森閑

総理執務室は、もの音一つせず、森閑(しんかん)としている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月28日金曜日

鼎の軽重を問う

だが、何としても、年内には国民航空の新体制をスタートさせなければ、首相としての鼎の軽重を問わ(かなえのけいちょうをとわ)れかねない、ここは急いで戴きたい。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月25日火曜日

自己を克明に再現するような口述に、場内は(しわぶき)一つなく、静まりかえった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月24日月曜日

慇懃

対応に出て来たのは、スーパーバイザーのマッカリーで、如才なく慇懃(いんぎん)であったが、すべて事務的にことを運んだ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月23日日曜日

洒脱

学者には珍しい洒脱(しゃだつ)な味のある武矢の家には、何事も秘密主義の事故調では聞けない解説や実験結果を聞きに、しばしば記者たちが訪れる。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月22日土曜日

我関せず焉

四人の委員たちはうんざりして顔を見合わせ、我関せず焉(われかんせずえん)と自分の仕事に戻った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月21日金曜日

お為ごかし

「私がとやかく申すことではありませんが、権威であられる先生方に混って、各航空会社の乗員、客乗の諸組合、その上部団体の幹部など、やけに組合関係者の応募が目だちますね、こういう連中は、どんな事故の場合でも、事故調に偏見を持って、異論を唱えて来ますから、除外ということにしないと、矢武先生、大へんですよ」お為ごかし(おためごかし)に云った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月20日木曜日

蒼惶

古溝は、さすがにいたたまれず、蒼惶(そうこう)と帰って行った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月19日水曜日

痛痒を感じない

裁判沙汰になれば、国民航空には腕利きの高名な顧問弁護士がずらりと控えているから、特に痛痒は感じない(つうようはかんじない)が、訴えられては、"補償交渉のプロ"と評価されている自分の名前に傷がつく。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月18日火曜日

鵜の目鷹の目

それにしても、まだ話合いも進めていない夫の補償金に、親弟妹が、鵜の目鷹の目(うのめたかのめ)なのを知るにつけ、お金が人の心をこれほど変えるものなのかと思い知らされた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月17日月曜日

塗炭の苦しみ

国民航空が、真剣に遺族との補償交渉に取り組もうとするなら、定年前や窓際族の社員より、会社の将来を担うエリートが、事故の凄惨さと遺族の塗炭の苦しみ(とたんのくるしみ)、そして遺族と会社との板挟みになっている補償係の立場を理解してこそ、誠意ある補償と安全に対する心構えができる——、それが恩地の補償に対する考えであった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月16日日曜日

安穏

東京本社で、日常業務だけで安穏(あんのん)と過ごしている者が沢山いるではないかという思いは、誰にだってある。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月15日土曜日

一席ぶつ

室長をさしおいて、一席ぶっ(いっせきぶっ)たが、恩地は、その言葉を遮った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月14日金曜日

なまなか

あの三人は、れっきとしたわが社の社員でありながら、ニューデリー、モスクワ、羽田沖など、事故の補償金算定一筋で、なまなか(なまなか)の保険屋より遥かに専門家だよ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月13日木曜日

人でなし

それまでじっと耐えていた夏子が、不意に仏壇に向かい、「私をおいて、死ぬなんて、人でなし(ひとでなし)!」と云うなり、泣き崩れた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月12日水曜日

おざなり

私の気持が、どう解るのよ、おざなり(おざなり)なこと云わないで。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月11日火曜日

頰かむり

だが事故調が独立機関とはいえ、存立の基礎が運輸省にある日本の実情では、委員長が、運輸大臣に建議を行うことは行政絡みから微妙であり、一つ間違えば日米間の大きな問題にも発展しかねないだけに、米国側と良好な関係を保ちたい運輸省としては、頰かむり(ほおかむり)しておきたい心中がみえみえであった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月10日月曜日

虫養い

部長の行天以下、通常の二倍の数で対応していた部員たちはコーヒーや、ビールのおつまみ、サンドイッチなどで虫養い(むしやしない)しながら、事故を取り上げるテレビのニュース番組や報道特集を見、ビデオに録画して、明日のコメントに備える体制を取っていた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月9日日曜日

悄然

恩地は悄然(しょうぜん)としてたち上り、部屋を出かかると、ホテルの浴衣を着た中年の男性がたちはだかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月8日土曜日

粛然

側にいる従兄も泣き、周りの人たちも、粛然(しゅくぜん)としてたち尽した。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月7日金曜日

滂沱

津慶の眼から滂沱(ぼうだ)と涙があふれ、なおも号泣し続けた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月6日木曜日

誰何

看護婦詰所と隣接する病室の前には、警察官がものものしく警備をしていたが、誰何(すいか)されることなく、病室へ潜り込むことが出来た。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月5日水曜日

言下

入院先の院長に面会を頼み込んだが、無理ですと、言下(げんか)に拒絶されたのだった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月3日月曜日

一粒種

この一二三便には、長男夫妻と、一粒種(ひとつぶだね)の孫が乗っている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月2日日曜日

小賢しい

背の低さを隠すために、いつもヒールの高い靴を履いて、国会内を走り廻るいやな相手であったが、運輸委員会で、些細なことを大袈裟な問題にして、小賢しい(こざかしい)質問をされることを思えば、ご機嫌を取るくらい、わけはない。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年7月1日土曜日

一挙手一投足

だが、恩地だけは瞬きもせず、堂本の一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)に眼を凝らしていた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月30日金曜日

立錐の余地もない

あまりにも大袈裟な言葉に、一瞬、座が白けかけたが、立錐の余地もない(りっすいのよちもない)ほどの場内の騒めきにかき消された。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月29日木曜日

殲滅

副社長、かくなる上は、裁判に持ち込むべきかと思います、金と時間がかかる裁判に持ち込んで、あのアカ組合を徹底的に殲滅(せんめつ)する、これがわれわれ組合の総意です。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月28日水曜日

恨み骨髄に徹す

恨み骨髄に徹する(うらみこつずいにてっする)というように云い、中谷も歯ぎしりした。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月26日月曜日

シンパ

南専務は、命令が出た限りは、従うより他ないという意見です、もともと、心情的に恩地シンパ(しんぱ)なのです、せっかく、アカの親玉黴菌の恩地を、今日まで島流しにしてきたというのに、沢泉という子黴菌が育って、一人前のことをはじめたかと思うと、腸(はらわた)が煮えくり返ります。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月25日日曜日

煮え湯を飲まされる

そうか、君は何度も煮え湯を呑まされ(にえゆをのまされ)て来たからな。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月24日土曜日

言質を取る

午後一時からの木暮社長とのトップ交渉の場で、差別を是正するという言質を取ら(げんちをとら)ない限りは、信用できません。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月23日金曜日

声涙ともにくだる

これも、証人尋問のしんがりを務めた恩地さんの声涙ともにくだる(せいるいともにくだる)証言と、その後、沢泉君が中央執行委員長として、会社の差別政策を止めさせるよう、早期に命令を出してほしいと訴えた結果だよ、よくやった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月22日木曜日

舌の根の乾かぬうちに

全面的に協力するからと、私を委員長に口説き落とした八馬さんがその舌の根も乾かぬうちに(したのねもかわかぬうちに)、団交の席でテーブルを挟み、労務課長としてわれわれと対峙したからです。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月21日水曜日

御殿女中

姑息な役人上がりや御殿女中(ごてんじょちゅう)のいない会社で、仕事のことだけ考えていればいいからね、いつか寄りなさい。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月20日火曜日

高邁

人間性、人格形成、責任意識という高邁(こうまい)な言葉が、繰り返された。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月19日月曜日

総毛だつ

気がつかないうちに、もしや自分も、その魔性に魅入られているのだろうか——、恩地は総毛だち(そうけだち)、身震いした。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月18日日曜日

出奔

恩地はオフィスへ急ぎながら、大使館の医務官夫人が、大使付きの現地運転手と道ならぬ恋におち、子供まで置いて港町のモンバサへ出奔(しゅっぽん)した話を思い出した。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月17日土曜日

多士済々

商社、海運会社の駐在夫妻、獣医、言語学者など、メンバーは多士済々(たしせいせい)で、話題にはこと欠かなかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月16日金曜日

鷹揚

「はじめまして、私は国民航空のナイロビ営業所に赴任しました恩地元です」と挨拶すると、二メートル近い大柄な社長は、鷹揚(おうよう)に革張りの椅子から立ち上がり、手をさしのべた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月15日木曜日

引導を渡す

「前にも話したように、君の人事は私の権限外のことだから、理屈を並べても時間の無駄だ、間違っていようが、いまいが、辞令が出てしまえば、従うより他ないね」引導を渡す(いんどうをわたす)ように、云った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月13日火曜日

機を見るに敏

日本時間の午前七時に直属の上司でもない部長宅へ緊急電話を入れるとは度胸がいいというか、機を見るに敏な(きをみるにびんな)奴だよ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月12日月曜日

硬骨漢

君の硬骨漢(こうこつかん)ぶりは、承知しているが、相手が悪い、この際、本社も事情があるらしいから、頼むよ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月11日日曜日

魑魅魍魎

日本では、ロイヤル・ファミリーに対して幻想を持ち過ぎだ、ロイヤル・ファミリーの名のもとに、利権を貪る魑魅魍魎(ちみもうりょう)の集団に過ぎない、そんな実態を知らず、妙な政治判断を下す前に、なぜ、現地支店長たる私に知らせなかったんだ、ここから先は、現地で一切取り仕切るから、本社で勝手な決定をしないで貰いたい。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月10日土曜日

取りつくしまもない

「では、自分でヘッド・オフィスへ確かめてはいかがですか、用件は以上です」ブサリーは話を打ち切り、あとは取りつくしまもなかっ(とりつくしまもなかっ)た。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月9日金曜日

口八丁手八丁

委員長はお祭り男で有名な畑辰造、副委員長は策士の甘粕一夫、書記長に至っては、口八丁手八丁(くちはっちょうてはっちょう)で、黒を白と云いくるめるペテン師の美原譲治、この三人を見れば、会社に舁がれた臆面もない御用組合であることは明らかだ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月8日木曜日

衷心

今日はようこそ、この歴史的な大会にお集り下さいました、特に、大阪をはじめ福岡、札幌から、この日のために馳せ参じて下さった代表者には、衷心(ちゅうしん)より感謝します。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月6日火曜日

言質

曽て、組合との団交の席でも、労務担当役員の胴元は、爬虫類のような動きのない表情で、言質(げんち)を取られぬよう最小限の発言しかしなかった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月5日月曜日

息せききる

「恩地さん、ここでしたか」息せききっ(息せききっ)て、客室担当者が走り寄って来た。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月4日日曜日

荒む

イランの荒々しい気象条件と人間に囲まれ、いつの間にか、妙に苛だち、荒み(すさみ)つつある自分に気付いた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月3日土曜日

面罵

「それがペルシア商法というのなら、汚すぎる、これが普通なら、以後、あんたとのつき合いは不快だから止める!」と面罵(めんば)し、フラットを出て、車に戻ったが、なかなか、エンジンは、かからない。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月2日金曜日

貪婪

仕事の上で、これほど熱心だったことはなく、リーダーシップもなかった支店長が、こと土産物の類いの話になると、人が変わったように貪婪(どんらん)になる一面を見せた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年6月1日木曜日

喜捨

墓守は、ウルドゥ語らしき言葉で、案内を買って出るふうであったが、恩地は断り、心ばかりの喜捨(きしゃ)をすると、恭しく頭を下げ、子供の手を引いて、たち去って行った。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月31日水曜日

栄耀栄華

栄耀栄華(えいようえいが)と滅亡の歴史の中で死んでいった人々の墓は崩れて、石杭のように僅かに残り、霊廟も柱だけが俤をとどめて累々と続き、やがて大地に埋もれている。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月30日火曜日

腹に据えかねる

この国ではよくあることとはいえ、あまりのひどさに、恩地は、腹に据えかね(はらにすえかね)た。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月29日月曜日

早晩

今、恩地を支えている執行部は、あれに引きずり廻され、早晩(そうばん)、死屍累々だ、君はどうするつもりだ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月28日日曜日

気色ばむ

恩地が、行天を見据えて云うと、「親しき仲にも礼儀ありだ、言葉を慎んで貰いたい」むっと、気色ばん(きしょくばん)だ。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月27日土曜日

誹りを免れない

私たちの今の要求は、これまでが低賃金であったため、正当なものであるが、一気に、一律定額四千円プラス、基本給二〇パーセントのアップ、諸手当の最大割増率二〇パーセントの要求は、世間から見れば非常識の誹りを免れない(そしりをまぬがれない)と思う。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月25日木曜日

毒を以って毒を制す

云われるまでもなく、昨年の十二月、日経連専務理事から、労務対策の手ぬるさを指摘され、組合執行部を制するには、毒を以って毒を制す(どくをもってどくをせいす)の術で、転向者の堂本信介の登用を示唆されたのだった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月24日水曜日

下賤

私は、労働組合などという下賤(げせん)な団体に加入しておりません。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月23日火曜日

罷り通る

いやしくも一人の人間の死です。そのような考えは到底、罷り通り(まかりとおり)ません。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月22日月曜日

木で鼻を括る

「労務担当として申し上げたいのは、あくまで現実に即した要求を出し直して戴きたいということです」 「それでは、われわれの要求が非常識だと云われるのですか」 「——言葉通りです」 木で鼻を括る(きではなをくくる)ように、答えた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月21日日曜日

伍する

いよいよ、海外渡航の自由化と、東京オリンピックを控え、今年あたりから、航空業界の本格的な需要が予想される、こういう時こそ会社と組合は強調し、労使一丸となって、世界各国の航空会社に伍して(ごして)行ける体力作りを、大きな目標にしたいと思っています。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月20日土曜日

披瀝

半ば、侮るように云ったが、恩地は、その転向組ならばこそ、手強い——、転向者なるが故に、労使対決の"踏み絵"を踏み、会社への忠誠心を披瀝(ひれき)しなければならぬ立場におかれるからだった。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月16日火曜日

奈辺

アフリカの地の果てとも云われているラゴスの市場調査は、国民航空にとって何ら必要のないことであるにもかかわらず、ものものしく、出張期間を指定してまで、自分を行かせようとする真意は、奈辺(なへん)にあるのだろうか。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月13日土曜日

村夫子

部屋に入って来た桧山社長は、村夫子(そんぷうし)然とした表情をちらっと動かし、「これは一体、なんだね」と聞いた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月11日木曜日

二枚腰三枚腰

しかし、桧山社長は要注意だよ、根は悪人とも思えないが、相当な二枚腰、三枚腰(にまいごしさんまいごし)だと思う。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月10日水曜日

語り草

その一件は、社内の語り草(かたりぐさ)になっていた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年5月7日日曜日

濁声

陣頭指揮を執るように、濁声(だみごえ)を上げた。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年4月30日日曜日

垂涎の的

日本人は動物園へ家族連れでよく行きますので、ケニアのような野生動物の宝庫は、垂涎の的(すいぜんのまと)です。

山崎豊子『沈まぬ太陽

2023年4月7日金曜日

能書

短冊や、消息、自ら書写した法華経をみるに、能書(のうしょ)である。

森鷗外『椙原品

2023年4月5日水曜日

寓居

だがかれの写真だけは今でも北京のわが寓居(ぐうきょ)の東の壁に、机のむかいに掛けてある。

魯迅『藤野先生

2023年4月2日日曜日

豺狼

今より後は、早くも父を失った自分が、若年ながら伊達の当主として奥州の一角に独立し、弱肉強食の戦国の世の豺狼(さいろう)の群れの監視の中に家門の旗を守らなければならない。

大池唯雄『兜首

2023年3月31日金曜日

追い縋る

政宗は、追い縋っ(おいすがっ)た。

大池唯雄『兜首

2023年3月30日木曜日

扈従

庭に下り立って輝宗は客を送って進み、上野、成実の両名がその後に扈従(こじゅう)した。

大池唯雄『兜首

2023年3月27日月曜日

股肱

同じく一方の大将として塩松攻略に力を協せていたのだが、政宗にとっては無二の股肱(ここう)であった。

大池唯雄『兜首

2023年3月26日日曜日

止めどもなく

三郎八は踊りあがって、引き裂けるばかり大口開いて、けたたましい馬鹿声をはり上げ、腸を霊山の頂までも吐き出すように腹をかかえて止めどもなく(とめどもなく)笑う。

大池唯雄『兜首

2023年3月25日土曜日

豪奢

東京での豪奢(ごうしゃ)な生活に馴れていた筈の彼が、何の未練も執着も残さず、あっさりと農民の姿に切替ったのも、心中、深く期することがあったのであろう。

池波正太郎『賊将

2023年3月24日金曜日

欣喜雀躍

西郷は欣喜雀躍(きんきじゃくやく)した。

池波正太郎『賊将

2023年3月23日木曜日

獅子奮迅

京都では新選組や見廻組の猛者達に恐れられるほどの凄まじい剣の冴えを見せたのだし、薩摩藩や官軍が行った戦争のたびに、利秋は「あやつは、よろずにつけ物を怖がることを知らん奴じゃ。胆の太かこと無類じゃ」と外祖父の別府九郎兵衛が口癖のように言っていた言葉の通り、獅子奮迅(ししふんじん)の働きをしてきている。

池波正太郎『賊将

2023年3月19日日曜日

やる方ない

半次郎の声にはやる方ない(やるかたない)悲憤の情がこもっている。 

池波正太郎『賊将

2023年3月18日土曜日

幇間

今吉原の廓で幇間(たいこもち)をやっているよ、松廼舎露八。

子母澤寛『玉瘤』

2023年3月11日土曜日

人もなげ

こういったロシア人の人もなげ(ひともなげ)な振舞いにたいして、幕府は相変らず「露人の来住は貸地だと思って黙認せよ」という態度であった。

綱淵謙錠『朔』

2023年3月7日火曜日

不得要領

勿論、いくら弱腰の幕府当局でも飲める要求ではなかったし、またロシアの海軍士官モフェト他二名が横浜で攘夷派浪人に暗殺されるという事件も起きたりして、ムラヴィヨフは不得要領(ふとくようりょう)のまま品川湾を抜錨した。

綱淵謙錠『朔』

2023年3月5日日曜日

平穏裡

以上のような早川弥五左衛門の前半生を顧みて思うことは、もしわが国の歴史にまだ泰平の眠りをむさぼっておれる余裕があったならば、彼の一生はあるいは名牧民官として平穏裡(へいおんり)に幕を閉じたかもしれないし、あるいはさらに大野藩の政治の中枢にあって名宰相の名をほしいままにしていたかもしれない、ということである。

綱淵謙錠『朔』

2023年3月4日土曜日

胸裡

弥五左衛門の胸裡(きょうり)に潜んでいた蝦夷地開拓の情熱は海防掛に任ぜられたことで大きくふくらみ、外からの点火を待っていたのであった。

綱淵謙錠『朔』

2023年2月26日日曜日

一日千秋

国で主君(土井利忠)が一日千秋(いちじつせんしゅう)の思いで大野丸の到着を待っておられるというのに、自分の不注意からつまらぬ病気にかかったばかりにこんな遅滞を招いてしまった、もう病気も癒ったのであるから、こんなところにぐずぐずしていないで、一日も早く敦賀に行かねば申し訳が立たない、というのであった。

綱淵謙錠『朔』

2023年2月25日土曜日

莞爾

時には互いに顔を見合わせて、莞爾(かんじ)とうなずきあうこともあった。

綱淵謙錠『朔』

2023年2月23日木曜日

逆縁

彼は逆縁(ぎゃくえん)だからといって一切これらのことを断った。

大池唯雄『秋田口の兄弟』

2023年2月22日水曜日

肩透かしを喰う

雄三郎は、何となく肩透かしを喰っ(かたすかしをくっ)たような気がして、ぼんやり家のなかに突っ立っていた。

大池唯雄『秋田口の兄弟』

2023年2月20日月曜日

掠奪

戦争の実相に慄然とした船岡勢も、はじめのうちこそかような行為をする敵兵を憎んだが、そのうちにはなんとも思わなくなり、自分達もまた進んで掠奪(りゃくだつ)をし、放火をし、次第に相貌まで変えて荒ませていった。

大池唯雄『秋田口の兄弟』

2023年2月19日日曜日

凌辱

百姓達は、平素収奪され圧伏されていた藩主の軍隊のために恐喝せられ、婦女は凌辱(りょうじょく)せられ、馬牛鶏の数は悉く盗まれて村は荒村と化した。

大池唯雄『秋田口の兄弟』

2023年2月18日土曜日

払暁

七日払暁(ふつぎょう)から一斉に進発を開始し、その日のうちに湯沢、稲庭の二駅を奪い、味方は敵を圧迫してどんどん進撃した。

大池唯雄『秋田口の兄弟』

2023年2月16日木曜日

日ならずして

仙台領柴田郡船岡村は伊達家御一家五千石柴田中務意広の知行所であったが、戦況は日に日に味方に不利で、官軍は日ならずして(ひならずして)国境に迫ろうとしているという風評がしきりであった。

大池唯雄『秋田口の兄弟』

2023年1月21日土曜日

一瀉千里

私は、たぶん、三日二晩で目次をつくり、あと一瀉千里(いっしゃせんり)に本文を書いて、合計1週間で10章44節の報告書を書きあげた。

木下是雄『理科系の作文技術