平伏している用人は、これはいぶかしきこと、と少し頭を下げて、
「は、将軍家にいらせられます」
と答えるとただちにたたみかけられ、
「ならば、城明け渡しはその将軍家よりご命令が下されしものか。主なき空城を、むざむざと敵の手に渡せよというご命令がもはや下されたのか」
と詰め寄られ、用人は冷汗三斗(れいかんさんと)の思いで、
「上さまはただいまご謹慎中にて、直接の命令にてはございませぬが」
と口ごもると、はげしい叱責が降ってきて、
宮尾登美子『天璋院篤姫』
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