何をしているか分からない人だからね。女衒(ぜげん)みたいなこともやるって噂だから、心配したのさ。
有吉佐和子『非色』
麗子は水色のワンピースに着かえて、この日殊更に臈たけ(ろうたけ)て美しく見えた。
メリーちゃんのことですよ。ちゃんと結婚したと言っても、今は別れているとなればパンパン(ぱんぱん)でもしていたかと人は思うもの。
節子がこの高円寺のアパートに現れたことはついぞ無かったし、考えてみると私がトムと結婚して以来というもの彼女の方から私を訪ねて来たことはなかった。殆ど没交渉(ぼっこうしょう)のままで、母の言う通り私は妹の存在を忘れていることがあった。
トムは健啖家(けんたんか)だった。生野菜のサラダを一息で平らげ、肉はグチャグチャに切り細裂いてから右手にフォークを摑み直して、ビールを合の手に飲みながら勢よく食べていた。
太陽のぬくもりで、春の気配で、たとえたまゆら(玉響)でも人は幸福を感じることができるのはなぜだろう。
星野道夫『旅をする木』
所帯やつれ(しょたいやつれ)した昔の山仲間が、久しぶりに一緒になって、日高山脈の秘境ポロシリや、その山腹に抱かれた七ツ沼のカールを探訪する山旅の話である。