さすがの大門も、空港での日系邦字新聞のカメラマンといい、荷物の積込みの素早さといい、万事に目端(めはし)のきくロス支店長の手配に気をよくし、冷房のきいたクリーム色のキャデラックに乗った。
山崎豊子『不毛地帯』
さすがの大門も、空港での日系邦字新聞のカメラマンといい、荷物の積込みの素早さといい、万事に目端(めはし)のきくロス支店長の手配に気をよくし、冷房のきいたクリーム色のキャデラックに乗った。
山崎豊子『不毛地帯』
最初の一年目は一万俵の買付計画が見事に成功したので、二年目の昨年度は一俵百三十ドルの取りきめで五万俵の取引を行ない、既に八割の前渡金も投じていたところ、霜害発生で立ち枯れ、品質不良の大被害を蒙り、棉花栽培者に前渡金の半分の返却を交渉したものの、天然現象だからと撥ねつけられ、五百万ドルに達するこげつき(焦げ付き)をつくってしまったのだった。
山崎豊子『不毛地帯』
教官の中には、陸大のそうした教育の建前を忘れ、自分と異なる説を主張する学生を嫌う者もいたが、坂野郷之は公正で、優れた解答者には、「教官の及ばなかったところまで考えている」と、明言して憚らぬ気宇(きう)の大きさが、より学生に熱を入れさせ、自宅まで押しかけても、とことん学生とつき合うタイプであった。
山崎豊子『不毛地帯』
ですが、社長、あと一息で利食いして逃げようとした潮時を、こうまんまとやられるとは思いませんでした、あの下げ方からすると、鬼頭社長に提灯筋がつい(ちょうちんすじがつい)て売りに入って来たところがあるんじゃないでしょうか。
山崎豊子『不毛地帯』
しかも、昨夜、壹岐にも女をあてがい、遊ばしてやろうとしても、固辞して家へ帰って行き、すべての点で、潔癖で身ぎれいさを持している壹岐の姿勢を思う時、さすがの大門も、どう切り出そうかと、とつおいつ、思いをめぐらせるばかりで、これという名案が思いうかばない。
山崎豊子『不毛地帯』
あの人は猛者揃いの防衛庁の中でも出色(しゅっしょく)の人物で、実に豪胆なんですね、あなたが防衛庁へ入らなかったことを残念がるあまり、わが社のことを、人攫い商社だなどと、人聞きの悪いことをおっしゃり、閉口しています。
山崎豊子『不毛地帯』
紀尾井町の宿舎へ壹岐たちを首実検(くびじっけん)に来た時の平凡な法律家という印象とはうってかわり、裁判長をも睥睨するような眼付で、「検察団を代表して、お願い致したいことがあります、この証人は、(中略)」と云った。
山崎豊子『不毛地帯』
見合いの席で会った浜田大将の令嬢は、彫りの深い美貌と明るい性格の女性であったが、言葉のはしばしに大将である父を意識し、暗に壹岐にも将来、大将になることを期待しているような様子が感じ取られ、それが息の心にそま(こころにそま)なかった。
山崎豊子『不毛地帯』