城内の大広間は侍たちで溢れた。風がないから人いきれ(ひといきれ)でたちまち暑くなる。暑さは人を不機嫌にする。
童門冬二『全一冊 小説 上杉鷹山』
須田は、国もとでの重役たちの動きを、手にとるように知っていた。というより、かれもその一味だった。米沢本国での"火種組"の行動は、重役たちからみれば目に余っ(めにあまっ)た。
童門冬二『全一冊 小説 上杉鷹山』
鳩首(きゅうしゅ)して、対策を協議するが、いい知恵は出ない。結論が決まっているからである。すべては金に帰着する。そして、その金がいまの上杉藩にとって、もっともないもののひとつであった。
童門冬二『全一冊 小説 上杉鷹山』
ここの宿主が商用で江戸に来て千代を気にいり、何度かかよって、「女房になってくれ」と懇願した。からだの弱そうな誠実な男だった。男の実にほだされ(絆され)て、千代は小野川に来た。ようやく温泉宿の経営をおぼえたころ、亭主が死んだ。
童門冬二『全一冊 小説 上杉鷹山』
一つの火種が十にも二十にもなった。そしてそれぞれがまた新しい炭に移された。炭火は十倍にも二十倍にもなったのである。これが、雪の道に燃えた、新しい富民(ふみん)のための改革の火種であった。
童門冬二『全一冊 小説 上杉鷹山』