2025年6月30日月曜日

閑却

この雑誌の中には人種差別というものは全くなく、驚くべきことにはそのために闘っている人々の記事さえないのだ。そういう意味では読者を啓発するということは閑却(かんきゃく)されている雑誌なのである。立身出世物語にしても、世の偏見といかに闘ったかという記録はなく、いかに彼に才能があったか、どうやってうまく金を儲けたかという話ばかりだ。

有吉佐和子『非色』

2025年6月29日日曜日

瞋恚

たかがスパゲティと黒い子供という言葉から始まった喧嘩にしては、引分けられてからも沸々と煮えたぎっている二人の瞋恚(しんい)は根が深すぎた。

有吉佐和子『非色』

2025年6月28日土曜日

捨て鉢

白人であっても竹子の夫と同じように酒や女に溺れ狂って捨鉢(すてばち)な生活にのめりこんでしまうのではないだろうか。

有吉佐和子『非色』

2025年6月27日金曜日

鼻をうごめかす

三人ばかりが鼻をうごめかし(はなをうごめかし)て「上品な」日本語を使ってみせたが、これは丁寧すぎてはなもちならなかった。

有吉佐和子『非色』

2025年6月26日木曜日

女衒

何をしているか分からない人だからね。女衒(ぜげん)みたいなこともやるって噂だから、心配したのさ。

有吉佐和子『非色』

2025年6月25日水曜日

臈たける

麗子は水色のワンピースに着かえて、この日殊更に臈たけ(ろうたけ)て美しく見えた。

有吉佐和子『非色』

2025年6月23日月曜日

パンパン

メリーちゃんのことですよ。ちゃんと結婚したと言っても、今は別れているとなればパンパン(ぱんぱん)でもしていたかと人は思うもの。

有吉佐和子『非色』

2025年6月22日日曜日

没交渉

節子がこの高円寺のアパートに現れたことはついぞ無かったし、考えてみると私がトムと結婚して以来というもの彼女の方から私を訪ねて来たことはなかった。殆ど没交渉(ぼっこうしょう)のままで、母の言う通り私は妹の存在を忘れていることがあった。

有吉佐和子『非色』

2025年6月21日土曜日

健啖家

トムは健啖家(けんたんか)だった。生野菜のサラダを一息で平らげ、肉はグチャグチャに切り細裂いてから右手にフォークを摑み直して、ビールを合の手に飲みながら勢よく食べていた。

有吉佐和子『非色』

2025年6月4日水曜日

たまゆら

太陽のぬくもりで、春の気配で、たとえたまゆら(玉響)でも人は幸福を感じることができるのはなぜだろう。

星野道夫『旅をする木』

2025年6月2日月曜日

所帯やつれ

所帯やつれ(しょたいやつれ)した昔の山仲間が、久しぶりに一緒になって、日高山脈の秘境ポロシリや、その山腹に抱かれた七ツ沼のカールを探訪する山旅の話である。

星野道夫『旅をする木』