小牧はよほど驚いたらしく、倉皇(そうこう)と電話を切った。
山崎豊子『不毛地帯』
まだ名前がついていないので、"一一五"と暗号で呼ばれていますが、一六〇〇cc、五人乗りのスポーツ・セダンで、御三家の中で落ち目の千代田自動者が、乾坤一擲(けんこんいってき)、これで社運を挽回しようとする命綱の新車なんですよ。
山崎豊子『不毛地帯』
会議のあと、一丸専務をはじめ、生えぬきの役員たちの数人が、私の部屋に来まして、これでは一将功成って万骨枯る(いっしょうこうなってばんこつかる)だと、憤慨しており、副社長である私も、これではやりにくくて、しょうがないですよ。
山崎豊子『不毛地帯』
壹岐は"毒蛇"と仇名され、防衛庁の実権を一手に掌握している貝塚官房長が、こちら側の逮捕者が出るのを、鎌首をもたげ(かまくびをもたげ)て、じっと待っているのかと思うと、背筋に冷たいものが奔った。
山崎豊子『不毛地帯』
防衛部長の川又は、芦田の上司にもかかわらず、同じ檜町の空幕内にいる中央警務隊長からは、一言の報告も相談もなく、聾桟敷(つんぼさじき)に置かれ、警務隊の取り調べに芦田二佐がどの程度、自白し、どういう処分になるのか、全く解らなかったのだった。
山崎豊子『不毛地帯』
一週間の会期中、もう何度、見て廻ったかしれないが、最初はいいと惹かれていた作品の中に、気負いや衒い(てらい)が目にたって来るものもあれば、何となく見過ごしていた抹茶茶碗や、壺に、心のぬくもりを感じはじめるものもあった。
山崎豊子『不毛地帯』