寄合で使う座敷とは逆の方向に向かっており、雪隠(せっちん)の前を通り過ぎ、さらに庭へ下り立つ。
朝井まかて『グッドバイ』
「女将しゃん」剣呑(けんのん)な声がした。弥右衛門が水を掻くような手つきで駈け寄ってくる。
地役人に知り合いの一人も作れぬものかと江戸町に足を運んでいるのだが、詰所の中を覗くだけでも胡乱(うろん)な目つきをされる。
最初はえろう堅物な男やったばってん、近頃はなかなか目端もきく(めはしもきく)とよ。
おなごが暢気に、そぞろ歩き(そぞろあるき)ばする通りじゃなかぞ。
昔は自在に交易できたばい。才覚(さいかく)さえあれば、異人とでも好いたように渡り合えた。
大浦屋は船持ちの油商やった。油商いのかたわら唐人や葡萄牙人相手の交易もして、商いの屋台骨(やたいぼね)を太うした。