小出は綿のよう(わたのよう)に疲れ切りながら、もう何度も同じ答えを繰り返し、否定した。
山崎豊子『不毛地帯』
兵頭は、三十五歳という齢に似ず、泰然自若(たいぜんじじゃく)とした風貌を備え、会社と自分の仕事をいつも十年先まで考えている逸材の一人であった。
そして気がついた時は、自分もその泥沼の中にどっぷり浸かり、ぬきさしならな(抜き差しならな)くなっている。
警察庁から出向して来ている官房長の秘書官の慇懃無礼(いんぎんぶれい)な声が、伝わって来た。
日頃は熾烈な競争相手も、年に一度の懇親会とあって、極力、商売の話を避け、あたらずさわらず(当たらず障らず)の世間話をして、和気藹々の雰囲気を作っている。
曾て空幕の調査課にいた小出にも、旧軍人らしい豪放磊落(ごうほうらいらく)な川又空将補の性格は解っていた。
一週間の会期中、もう何度、見て廻ったかしれないが、最初はいいと惹かれていた作品の中に、気負いや衒い(てらい)が目にたって来るものもあれば、何となく見過ごしていた抹茶茶碗や、壺に、心のぬくもりを感じはじめるものもあった。