「部品、作ってもいいんじゃないの?」人を食っ(ひとをくっ)た調子で財前はいい、上目遣いで富山を見る。
池井戸潤『下町ロケット』
本件はナカシマ工業を完膚無きまで(かんぷなきまで)に叩きのめすチャンスだと思います。これからお話しするのは、そのための戦略です。
田辺の言い方に、「あのですね、先生」、と思わず佃は口を開いた。「この事件、少々荷が勝ち過ぎ(にがかちすぎ)ているということはありませんか」いましがたの裁判で喉が渇いたか、コーヒーと水を交互に口に運んでいた田辺の手が止まった。
「地合い(じあい)がよくないでしょう」根木の反応は冷たかった。
筒井氏は、反幕思想を抱いて各地の同志を糾合(きゅうごう)しようと行動している彦九郎の家庭を破壊させることを企てていたのだ。
吉村昭『冬の鷹』
良沢にとって急がねばならぬことは、養子を得て家督を相続させることであった。もしもそれが果たせなければ絶家(ぜっけ)になるのだ。
玄白も、世情が平穏になったことに愁眉をひらき(しゅうびを開き)、定信の相つぐ新政策を歓迎していた。
が、このような糊塗(こと)的な政策は根本的な解決とは程遠く、社会混乱は一層激化した。
工藤は西洋医学に関心をもつすぐれた医師で潔癖な性格が良沢の意にかない、数少ない知友(ちゆう)の一人であった。
体も大きく眼光炯々(がんこうけいけい)としていて、威圧され、恐ろしく思いました。
源内の体は、衰弱していった。奢侈(しゃし)になれたかれの体は、牢内の惨めな生活に堪えられなかったのだ。
これも良沢らの篤学(とくがく)故だと断じ、感動の大きさを書きとめていた。
そうした喜びにひたっていた玄白にとって、良沢の固辞は冷水を浴びせかけ(ひやみずをあびせかけ)られたような衝撃だった。
ターヘル・アナトミアの翻訳事業は、オランダ医書を日本で初めて訳業に成功させた壮挙であり、たちまち玄白らの名は全国に喧伝(けんでん)されるにちがいない。
このような傾向は唾棄(だき)すべきで、医家たちは本格的にオランダ医学を学ぶ態度をとるべきではないかと指摘していた。
こうと決まれば、俗諺(ぞくげん)に善はいそげと申す。明日早速拙宅へお集り下され。工夫をこらして、このターヘル・アナトミアの翻訳を始めましょう。
老人は、かれらが異常な興奮をしめしていることに気づいた。その緊張した気配に、かれは口をつぐん(噤ん)だ。
良沢は、野獣を前に斧をふりあげて立ちむかう蟷螂(とうろう)の姿を連想した。
かれ自身も百日間でオランダ語を修得するなどとは思っていなかったが、それを幸左衛門に難詰(なんきつ)されてみると、あらためて自分の不遜さが恥じられた。
たしかに、私の家には貴重なデキショナールがつたわっておりましたが、それがどうしたわけか散佚(さんいつ)してしまっておるのです。
良沢に無関心だった全沢は、急に態度を一変した。かれは、すすんで良沢に書物をあたえ、該博(がいはく)な知識を駆使して書物を解説する。