こましゃくれた口を利くばかりではなく、沢田のバンドに手をかけて、はずしにかかろうとする図々しさだった。
新田次郎『望郷』
彼のような抽象に長じた理論家がきわめて卑近(ひきん)な発明の審査をやっていたという事はおもしろい事である。
寺田寅彦『アインシュタイン』
この二回の捷報(しょうほう)は長安の君臣を悦ばせ、その度に戦捷気分は巷々に溢れ、皇甫惟明の名は辺境守備の英雄として漸く高くなっていた。
井上靖『楊貴妃伝』
いかなる理由で、実際には何の力も持たぬ尊号などというものに血道を上げ(ちみちをあげ)ているか納得できなかった。