二十六名の幕僚たちは寂として声なく、袂別(べいべつ)の盃を干し、一人去り、二人去って行った。
山崎豊子『不毛地帯』
「死ぬために来たのです。死を怖れることなんかあるものですか」女は昂然(こうぜん)と言った。
新田次郎『天国案内人』
いわば、網走湖の浮島天国を相手に禅問答(ぜんもんどう)でもしているようであった。
すてばち(捨て鉢)的なことばを吐いたにしては、まとも過ぎるほど冷たい表情がそこにあった。
そのころになると、発疹チフスはもうどうにもできないほどの猖獗(しょうけつ)をきわめた。
新田次郎『七人の逃亡兵』
ロシヤ語の片言が話せる者は、ソ連兵に鼻薬(はなぐすり)をきかせて堂々と取引をするという噂もあった。
夜の帷が降り(よるのとばりがおり)たと言っても、厳密には天文薄明と言われる時刻であった。
新田次郎『生き残った一人』